ゲート

「今から教える術は、誰にも言ってはいけないことだよ。人生において一度たりとも他言してはならない」

高齢の男が真剣な眼差しで言った。ぼくは頷き「もちろん」力強くそう答えた。


 G県の山奥にある小さな祠。周りは村ばかりでこれといった特徴的なものはなく、若者が好きそうで賑やかな店でもなければゲームセンターもない。畑と森林がただ広がる田舎だった。その場所に生まれたわけでもなければ育てられたわけでもない。ただ、この村は他と違って、別世界…つまり、魔法の世界とつながるゲートがここにある。祠に手を合わせ、呪文と共に自分の血を皿いっぱいに捧げることで魔法の世界へとゲートが開かれる。ゲートは扉みたいなもので、戸がない。ひねる必要もないし開ける必要もない。ただ、通ればいい。単純なことだ。だけど、このゲートを通る際に酷く酔う。船酔いで七日間食事も寝る事さえできないほど苦しみを味わいさせられる。頭が痛くなる。憂鬱になる。息を数だけでも苦しくなる。そんなゲートを通らなければ、友達もあこがれも見えなくなってしまう。

 ゲートを通り、船酔いでその場に倒れ地べたを這いながらゲートを出た。森に囲まれ、蝶々のような羽をつけた小人が宙に飛んでいく。手で掴めるほど小さくその生物のことを妖精と呼んだ。

「あいかわらず弱いな」

 腕を組み偉そうな口ぶりでこっちを見下ろす青い肌をした爬虫類。顔はゲームやアニメに登場するような竜(ドラゴン)のような顔立ちをしている。体は人間そのもの。ちゃんと手足はあり、五本指だ。カリュウという名でぼくと契約を交わしたれっきとした妖精だ。

「そんなんじゃ、ついていけないぜ」

「……きも…ちぃ……わりぃぃ~…」

 オエーっとその場で吐き出してしまった。胃の中が痙攣(けいれん)している。魚が地面の上でぴちぴちと撥(は)ねるように手がぴちぴちとはねた。もう体が限界だ。

「まったく…肩掴めよ。おぶってやるわ」

 ゲートをくぐるのは毎回嫌になる。この気持ち悪くなるのをどうにかしたいものだ。カリュウはそんな僕をみては助けてくれる。だけど契約によって助けてもらっているに過ぎないことをぼくは日に日に思う。もし、契約していなかったらきっと、ぼくを置いていくか食べてしまっていたのかもしれない。

 最悪なことを頭の中で横切りながらぼくは深い眠りへと落ちていった。

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