プロローグ③
「誰あんた……」
「ついに召喚の成功じゃあ! しかも凄まじい力持って出てきおったぁ! お主!」
「あ、はい……」
「すてぇたすぅと唱えてみろ」
恐らく、このお爺さんが言っていることはステータスの事だろう。
召喚、神、力。これらのワードから察するに、恐らくここは異世界ということなのだろう。地獄も突き詰めれば異世界と同じだ。
そんなことを考えつつ俺はお爺さんのいう通りにステータスと唱えた。すると……。
──────────────────
名前:|最上稟獰(もがみりんどう)
職業:高校生
種族:人間
Lv:225
体力:無限
攻撃力:世界崩壊レベル
防御力:世界が消えても生きてる
魔力:なんでもできる
俊敏力:光速より速い
運:異世界転生してる時点で無し
スキル:
・火、氷、雷、風、闇、光の魔法全て使用可能で、これらの攻撃を無効化する。
・重力、時間、空間、次元の魔法を全て使用可能で、これらの攻撃を無効化する。
──────────────────
……。とんでもないステータスだった。確か異世界転生物の物語で有れば、現世で死んでから、神から力を手に入れ、異世界無双なんて話をよく聞くが、世界の理さえもぶっ壊しかねないぶっ飛んだ力は流石に見たことがない。
だがもしこの力が本当に使えるのなら、現世に戻り、また高校生活に戻ることだって可能ということだ。
「どうじゃった?」
「うーん……」
だが、俺は当然ながら戻る気はない。せっかくこんな力を得て異世界に転生したんだ。ならば無双なんてものもやってられない。自由に第二の人生を謳歌してやろうじゃないか。
そう考えた。
「まぁ、そこそこかな」
「おぉ……なるほどなるほど……」
俺は頷くお爺さんの次の言葉を待った。
しかし、それ以降会話が続くことは無かった。俺はこれから何をすべきなのかが分からず、お爺さんも俺のことを見つめるだけで何も進展が無い。
仕方がないから、俺が先に口を開いた。
「それで……? 俺はこれからどうしたらいいんだ?」
「……何のことかの?」
「いや、あんたが俺を召喚したんだろ? 俺は何をすれば良いんだ?」
「なに!? 何でもかんでも人のせいにするでない! 全く最近の若者は……」
どうやらお爺さんは俺を召喚した。その事実を今ここで忘れたようだ。
つまり認知症。恐らく、今なぜ、この洞窟に俺とお爺さんがいるのかさえも忘れていることだろう。
「所でここは何処なんじゃ!! このワシをこんな洞窟で捕らえおってからに! 返せー! 家に返せー!! 返すんじゃーー!!」
……。非常に五月蝿い。ここで燃やしてしまおうか。
俺はそう考え、お爺さんへ片手を伸ばし、魔法の使い方は分からないが、何となく炎のイメージを頭の中で作り出す。
そうすれば、片手の平がだんだんと熱くなるのを感じ、これが魔法かと察した瞬間。
「おーい! お爺ちゃん! そこの人、もしかして転生人?」
恐らく洞窟の入り口の方だろうか。若い男性の声が洞窟内を|木霊(こだま)する。
そうすればすぐに薄暗闇の奥から、声のイメージ通りの若い男が現れた。どうやら男はこのお爺さんを知っているようだが……。
「おぉ〜タケシ!」
「お爺ちゃん。俺はセ・イ・ト」
「セイト? うーむ。そんな名前じゃったかのぉ……」
「じゃあタケシで良いよ」
「そうじゃ思い出した! タロウじゃったかの!」
「うん。タロウだよ。お爺ちゃん」
しかしお爺さんは男の名前すら知らなかった。いや、恐らく本来なら知っているのだろう。だが認知症が原因か。
このセイトと名乗る男の諦めの速さからして、お爺さんの症状はかなり酷いもとの察することが出来る。気の毒だ。
そんなことはさておき、俺を置いてボケコントを突然繰り広げる二人に俺はツッコむ。
「あの、俺は?」
「あぁ! ゴメンゴメン! 僕の名前はセイト。君のような転生者をずっと待ってたんだ!
見ての通り僕のお爺ちゃんはこれだから。なかなか召喚の儀を進ませること自体に苦戦していてね。やっとの思いで召喚出来たんだ……」
なるほど。とりあえず俺が何故化け物の胃袋の中にいたのか。その理由がなんとなく分かった。
だがこの応答によって今一つの事が確定する。
俺は現世に帰ることは最早不可能になったということを。
お爺さんの認知症といい、召喚するだけでも一苦労だったという話と、俺のことを覚えていない時点で、帰還させることは更なる苦労が必要なことが容易に分かる。
その確率はほぼゼロに近い。
「なるほど……」
「あれ? なんか大分落ち着いてるね?」
「いや、もう諦めた」
「あはは……なんかゴメン」
「それはそうと、俺はこれからどうすれば良いんだ? 俺からすれば今此処にいるお前が唯一、今の状況を知る人間なのだが」
「あぁ、そうだった。それはこれから移動しながら説明するよ」
「分かった」
俺はまだ何かしら喚いたり、言葉を吐くお爺さんを置いて、セイトの後を着いていくことにした。
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