プロローグ②
俺は妙に暖かく、ぬめっとした感覚に目を覚ます。視界にはすぐに真っ赤が埋め尽くした。
変わらず視界が霞む程の異常な湿気と、肉が腐った臭いが充満しており、息を吸えば咳き込む程の酷さ。
俺はすぐにそこが地獄だと察した。
広さは縦に長細く、上下に脈打つ穴が見え、今の状況から考えるに、まるで巨大生物の胃袋のようだった。
もしそうであるならば、上に登れば出口が。下に下れば、出口はあっても生きては出られる保証は無いだろう。
だからといって上に登ろうとも、粘液のせいで上に上がることは不可能。ではどうするべきか? 全く分からない。
俺はこのままこの胃液らしき液体に溶かされてゆっくり死んでいくしか無いのか。まぁ、ここが本当に地獄なら、俺は生き延びる価値がないと言うことになる。
それも、俺を地獄に落とした神がそれを許す訳がない。だから俺はここで何も考えずに、二度目の死を迎えるのが最適な末路というわけだ。
俺は目を瞑り、いつか溶かされて死ぬことを静かに待つことにした。
しかし、その眠りを妨げるかのように謎の声が俺の頭に響いた。
『おお、なんと嘆かわしい魂か……。そこにいるのは単なる不幸だと言うのに、我が助けた魂を自ら捨てるとは嘆かわしい。あぁ、嘆かわしい』
「……誰の声だ?」
その声は凄まじく威厳のある声で、喋るたびに脳が揺れる感覚がする。
それは正に神のような声で。普通なら萎縮するような物だが、俺は二度目の死を決意していたからか、何事もなくその声に反応することが出来た。
『我声が聞こえるのか……? ということはまだ正気は失っていないのだな?
ならば話は早い。汝、そこを出たいだろう? ならば我の言う通りにせよ。さすれば強大な力を持って、ここから脱出することが出来るだろう。良いか最上稟獰。
力を解放せよ。今より汝の魂に神の光を与えん。さぁ力を解放せよ』
「言っている意味が分からない。力を解放ってなんだ……?」
『いいからなんでもせい!! 今なんか格好いい雰囲気じゃったろ! はやく力を解放するのじゃ!』
「えぇ……」
力を解放せよ。と言われても。分からない事は分からない。何をどうすればいいのかくらい教えて欲しい。
だから俺はその声の次の言葉を待った。
『もうええわい! ワシが直接解放させてやらぁ……死ぬなよぉ!!』
謎の力で死ねるなら本望だ。先程まで死ぬ覚悟をしていた人間に勝手に力を与えて置いて、死ぬなよとは不便な。
でも俺は死ぬ覚悟は既に出来ている。力とやらを解放するなら早くしてくれ。
すると、俺の腹から急に温かな光が溢れ出す。その光はだんだんと光を増してゆき、熱さもどんどん上がっていく。
俺はその感覚に咄嗟に腹を抑える。何か出そうだからだ。
小便や下痢ではない。口から、耳から、目から、鼻から。身体中の穴という穴から光が漏れ出し、俺はいても立ってもいられなくなり、その光に身を委ねた。
「な、なんだこれ……!? うわああああああ!!」
そしてその直後、肉が潰される爆音が耳に響き、視界一杯に光が差し込む。
俺はその光に腕をかざして影を作ると、だんだんと目が光に慣れてくることに、ゆっくりと腕を下ろした。
意識もはっきりとしていて、視界も綺麗に見え、気がつくと俺は外にいた。
背後には何らかの死骸が転がっていることから察するに。やはりさっきいた場所は生物の胃袋だったのだろう。
そうしてその死骸以外で最初に俺が確認した物とは。そこは薄暗い洞窟の中だった。
そして自分の目の前には、瞳をキラキラと輝かせながら、パチパチと拍手するお爺さんがいた。
「すごい! すごいんじゃ!」
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