第1話 チート転生したらよくあること

 俺はいつも通りに学校へ通おうと思ったら、途中で通り魔に刺され、あろうことか異世界転生を果たした。

 しかもぶっ飛んだチート能力を持って。


 転生したら最初は化け物の腹の中で目覚め。

 脱出すると瞳を輝かせるお爺さんに会い。

 お爺さんは認知症で即座に俺を転生させたことを忘れ。

 帰れなくなったことが確定すれば、セイトと名乗るお爺さんの息子に会い。

 ついて来いと言われてたので、現在移動中だ。


 そして俺は今重要な事に気がつく。チート能力を活かして元の世界に強制帰還も可能だが、戻った所で俺は既に向こうでは死んでいることを。

 つまり、元の世界に戻っても、いつも通りの生活を送る依然の問題ということだ。


「っていうことなんだ!」


 俺の隣を歩くセイトが突然口を開く。その発言から察するに、俺が何か考えごとをしていた時に何かを話していたのだろう。


「悪い。なにも聞いて無かった。もう一回説明よろしく」


「えぇ……。あぁ、うん。まぁ、この話は目的地に着いたら改めて話されると思うから、今度はしっかり聞いてね」


「あいよ」


 そうセイトと話すと、すぐに俺の目の前に巨大な石の壁が見えた。

 壁の上は凹凸型に窪みが出来ており、一定間隔で壁の上に兵士らしき人影が見える。

 言わばこれは城壁。そして俺が来た目的地とは、恐らく王国。


 左右を見渡せば、奥までずっと続く壁があり、視界中央には、大きく解放された木製の大門。そこに二人の兵士が門番をしていた。

 そこに、俺が進もうと歩を進めると、すぐにその兵士に止められた。


「ようこそ。プロトス王国へ。身分証はありますか? どのようなご用件で?」


 身分証なんてものはない。一応俺は高校生だから学生証はあるが、当然あんなものは普段から持ち歩いていない。

 俺がどうしようか言い淀んでいると、セイトが前に出る。


「桐谷一郎の息子、桐谷誠人です。王様の命令に従って代わりに連れてきました」


「連れてきた……? はっ!! どうぞお通り下さい!」


 衝撃の事実と予想していた事が同時に俺の頭に頭に入ってくる。

 一つは、セイトがどう聞いても日本人の名前だということ。

 一つは、この兵士の態度から見ると、俺は勇者とか重要人物なのだろう。


 そうしてそのまま大門を入り、街の中を進み、王宮の門を開けられ、まっすぐ王の間まで辿り着いた。

 王の間は、俺が入ってきた扉から奥の玉座まで赤いカーペットが伸び、玉座まで続く道を両サイドから挟むように、銀の鎧を纏った兵士が等間隔で立っていた。


「王様! 転生者を連れて参りました!」


 セイトは俺の真横で膝をつき、王であろう奥の玉座に座る男に、転生者を連れて来たこと伝える。


「うむ。宜しい。さてそこの君。話は聞いておるな?」


「いや、聞いてない。もう一度説明を求めようとしていたところだ」


「良いだろう。ならば改めて、儂の口から伝えてやろう……」


 王であろう男は、息を吸ってから大声で説明する。


「此処は、いやこの世界は今! 魔王の力で滅ぼされかけておる! 歴代1000万年も続く時代があり、魔王が復活する度に、勇者がそこにはおった。

 勇者は、魔王が復活する度に封印し、この世界を守って来た。しかし! 今回の勇者は魔王の封印に失敗し、魔王の力は一気に増大。我らに打つ手は無くなってしまった。

 そこで我々が唯一、一つだけ世界を救う方法を見つけた。それは別世界の死者をこちらへ転生させ、勇者とさせる事! そう、お主の事だ……」


 なんてことだ。予想していたことがピッタリと合ってしまった。

 つまりこの先にある展開とは、もう一度この王様に「ステータスと唱えろ」と言われるだろう。そしてそこで俺はチート能力を手に入れ……異世界無双……を。

 いや、異世界破壊を始めることだろう。


 そう、俺のチート能力は、無双という言葉を塗り替えるほどに、ぶっ壊れている。

 俺は展開も終末も分かりきっている事に大きくため息を吐く。


「はぁ……」


「どうせ自分には力が無いと思っておろう? 安心せよ。転生の際、お主には何らかの能力がつけられたであろう? ステータスは見たかな?」


「あぁ、色々とヤバい力がな……」


「ヤバいとは……?」


「うーん。本気を出せばこの世界を破壊しかねない……そんな感じ?」


「ほーう。それは頼もしい。ならば、アオス! ステータス開示を頼めるかな?」


 俺が簡単に能力のヤバさを伝えると、王様はそれが冗談だと思っているのか。それとも、それほどの力を持たなくとも、かなりの力があるとみているのか。

 王様は側近だろうか。隣にずっと立っていた神父の服を着た男を呼んだ。


「はい。かしこまりました。それでは、ステータスの開示をぉぉ……!?!?」


 男は俺のステータスを流れ作業で見るや否や、同時に口と目をかっ開いて驚愕する。

 まぁ、このステータスを見ればそんな反応するのは大いに分かる。


「どうしたアオス!! 何が分かったんじゃ!」


「訳が分からない……王様、この男は危険です。ほんとうに……本当に! 王国。いや、世界を破壊しかねない。そんな力を持っております……」


「ほう……つまり偽装スキルということか。なにアオス。慌てることではない。そんな過剰な偽装を我前でやると言うことは、それほど自信を持っているということじゃな?」


 なんと、王様は俺のステータスを装っているのではと疑った。

 これはもはや馬鹿と言うべきか、それとも天才と言うべきか。まぁ、どっちでも良いけど。


「あぁ、そうかもな」


 どうせこの様子だと信じてくれそうに無いので、とりあえず合わせることにした。

 神父の人は相変わらず口をあんぐりと開けて固まっているが。


「勇者は古来から凄まじい力を持っていることは知っておる。しかし、過剰に偽装することなど、すぐに分かることじゃ。

 アンドレ! しっかり、どんな力を持っているか見てくると良い。

 もしかしたら……偽装だけの全く使えない者という可能性もあるからのぉ……」


 馬鹿だ。この王様は馬鹿だと確定した。ついさっき自分で勇者は強いと言ったってのに、逆に勇者を疑うとは。

 なんて愚か者なんだ!!


 そうすると、王様は周りに立っていた他の兵士よりも、一際ゴツい装備をした兵士を呼び、俺の力を審査してこいと伝えた。

 すると、その兵士は死んだような目で、ため息を吐きながら、返事をした。


「はいはい。どうせ王様の言う通り。偽装しか使えない雑魚ですよ。神父も、もう少し人を見る目を鍛えた方が良い。

 さっきから王の前で膝を付けない人間がそんなに強い訳が無い……」


 そう言うので俺はふと神父の顔を見る。

 全力で顔を横に振っていた。恐らく、俺が偽装すらもしていないことを唯一わかっているのだろう。


「では、最上稟獰だったかな? 私に着いて来たまえ」


「あいよー」

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