第7話 スキル試遊②
「――こんなもんでいいかな。コートとかあまり着たことないから似合ってるかわからないけど。なんだか、とても着心地がいい」
神からの手紙の余韻に浸っていた須藤は手に持っていた手紙を丁寧に折り畳むと【インベントリ】の中に入れる。
そしてさっそく貰った衣服に着替えてみた。脱いだ制服は布袋に入れるとそのまま【インベントリ】に戻す。
口で【閉じろ】と言うと【インベントリ】が一人でに消える。
「片手剣は……最初はスキルの練習が優先だから今は腰に付けとくか」
手紙に書いてあった通り、腰のバックルに取り付ける。
今の須藤の見た目は旅人風の衣服――ロングコートとロングパンツに身を包む日本人と言った感じだ。見た目が黒目と黒髪。東南アジア風の顔付きだからかどうしても異世界人には見えない。ただ忘れてはいけない。そこで最後の神からの贈り物。赤色のピアスを左耳に付けることにした。
生前、ピアス等のアクセサリーなど付けたことがない須藤だが、確か男性は左耳に付けたはず――といううろ覚えのもと、自分の左耳に赤色のピアスを付けた。
「――多分、これでいいと思う。ただ、なんか変わったのかな? ピアスを付ければ見た目と……そうだ。名前が変わるんだ。見た目はわからないが、名前なら――『ステータス』」
何かに気付いた須藤は再度『ステータス』と唱える。
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スカー・エルザット 18歳 男(須藤金嗣)(15歳 男)
L v.:1
種族:人種
職業:商人(※特殊職業:【転売ヤー(時空間魔法)】)
加護:なし(異世界神の加護)
属性:無(時・空間)
持ち物:学生証・スマホ(異世界仕様&充電は魔力 破壊不能オブジェクト)
所持金:15000ウェン
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「――」
名前を。その名前を見た須藤は目を開く。
見たことがある。そう、見たことがあった。[スカー・エルザット]という名前。そして「18歳」という年齢。
須藤にはそれだけ見てすぐにわかる。自分が思っていることが合っているなら――
「――これ、この名前。俺が地球で好きだったアニメのキャラ――『スカー』の本名と年齢だ。じゃあ、もしかして……」
恐る恐る自分の短くなった前髪を伸ばす。そして色を確かめる。
その髪色は「焦茶色」だった。
そして確信する。
「神様は俺の過去を見て一番好きなキャラの見た目と名前にしてくれた」と。
須藤がいた日本では「悪徳商人 スカーの憂鬱」というマイナーなアニメがあった。
「スカー」は主人公でもありながら、自分で考えた悪どい商売をする悪人。ただそれはすべて「病気」の妹のためだった。
人に嫌われようが孤独になろうが、その優しい心根を持ち自分の目指した道に進む。
そんな「スカー」を自分に重ねて、自分もこんな「人」になりたい。妹を助けたいと思っていた。それを知っていた神からの贈り物だった。
「――神様。本当にあんた、お節介だよ」
そんなことを言いながらも、須藤は嬉しそうに自分の変化した髪を弄っていた。
◇
「――しっ! これで『修行』……とは言わないけど、スキルの練習が出来る。【インベントリ】は確かめたから――【ロック】!」
落ち着いきを取り戻した須藤はさっそく次のスキル名を叫ぶ。
今度は右手を前に出すと【インベントリ】を使った時と同じ要領で【ロック】と叫ぶ。
「――て、あれ?」
しかし何も起きず。
須藤が出した右手は虚空を切るだけで他に特に変わりはない。
「えっと、確か【ロック】は『手で触れた物を固定する』……だよな。でも当たり前か。空気なんて固定出来るわけ無いよな――ぐへっ!?」
何馬鹿なことしてんだろうと思い前に一歩進んだ須藤は見えない「何か」に顔面を強打して、蹲る。
「痛たい。って何が――」
蹲りながらも上を見るが何もない。
そこで須藤は自分の『ステータス』を確認してみることにした。
すると『魔力』の数値が「4900」→「4800」に変わっていることがわかった。
「――じゃあ、スキルはちゃんと発動してるってことだよな」
未だに強打して痛む鼻を片手で押さえながら、慎重に起き上がると自分が「何か」に当たった場所を触ってみる。目では視認できないが何か固いものがあるように感じる。なのでコンコンと叩いてみる。
「んんん、まるで板か鉄でも叩いているような感じだ。音は何も鳴っていないのに不思議だな――ならば」
腰に下げていた片手剣を鞘ごと両手で掴むとその「何か」に上段から叩きつけてみる。
「――やぁ!……おっとと」
その「何か」に片手剣を当てた須藤は逆に跳ね返されてしまいよろめく。無音なのがまた怖い。
ただこれで証明された。スキル【ロック】はしっかりと使えている、と。ただ今の現状だと今後使えるのかどうかはわからない。
なので一旦【ロック】は【解除】と言って解除する。今は触っても何もない。
そのことを確認できた須藤はせっかく片手剣を抜いたならと思い、もう一つのスキルも使うことにした。鞘から剣を抜かずに抜刀歳のように構える。
「――ただの真似事だけど。一度やってみたかったんだよな。片手剣がこんなに重いとは思わなかったけど。よし、じゃあ――【
腹から声を出して目前に向けて鞘に入った片手剣を振る。
ブワッ!!
へっぴり越しの須藤の抜刀……とも呼べない何か。ただスキルはしっかりと発動した。
その威力は空気を文字通り切ると、須藤の半径一メートルの空間がバッサリと切れる。
そう、空間が切れたのだ。
今も【インベントリ】を使った時のように須藤の目前の空間が亜空間が開いたような状態になっていた。
「は、ははは、なんだこりゃぁ」
自分でやったことなのに本人は尻もちをつきながら自分がやったモノを青ざめた顔でみる。腰が笑ってしまい上手く立てない。
拝啓、神様。
貴方に貰った贈り物はスキルはとても素晴らしい物の数々です。でも――自分で上手く使えるのかわかりません。
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