第6話 スキル試遊①
「――【インベントリ】!」
右手を前に出し、『魔力』を内側から右手に注ぐように集中する。
何故か、誰かが「そうしろ」と言うように須藤は導かれ、再現する。
少しして須藤の目の前にそれは現れる。
ブラックホールのように真っ黒く、そして中に空洞のあるような物体が。
「こ、これが――【インベントリ】。凄い。凄い。俺にも、俺にも……魔法が使えた!」
【インベントリ】を使えたという嬉しさと、本当に魔法が自分でも使えるという夢が叶い。須藤ははしゃぐ。
なんでもこの須藤。生粋のアニメ&漫画オタク。アルバイトや妹の看病をする以外は全て自分の趣味のアニメ&漫画鑑賞に費やしているほどだ。
そんな須藤はいつか魔法を使うのが夢だった。子供のような夢。でも誰しもが一度は願う儚い夢。
「――で、でも、どうしよう……
気合を込めて【インベントリ】――ブラックホールのような亜空間に腕を入れる。
「――なんだろう。別に熱くも寒くもない。ただ自分の手が宙を彷徨っているみたいで……どうすればいいんだ……?」
一度手を亜空間から抜いてみた。
「――特に、何もない。何かに触れた感じもしないし……中に何も入れてないからか?……そう言えば、ステータス画面に何か知らない項目があったような――」
亜空間から抜いた腕を振ったり、手のひらを開けたら閉じたりしたが、特に変わったところはなし。そこである記憶を思い出す。
「――『ステータス』」
先程と同じ要領で右手を前に出し、『ステータス』と唱える。
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須藤金嗣(15歳 男)
L v.:1
種族:人種
職業:商人(※特殊職業:【転売ヤー(時空間魔法)】)
体力:100
魔力:50(5000)→(4900)
スタミナ:50
筋力:50
防御力:50
魔防御力:50
素早さ:30
運:100
加護:なし(異世界神の加護)
スキル: 成長速度上昇 体術lv.1(時魔法lv.1【使用魔法:ロック】(使用魔力100 レベルに応じて変化) 空間魔法lv.1【使用魔法:インベントリ】(使用魔力100 レベルに応じて変化) 時空間魔法lv.1【ルーム・
(ユニークスキル:異世界言語能力(異世界の言語が理解できる))
(エクストラスキル:メルカー(スマホで地球と同じフリマアプリができる。買えるもの売れるものは自由。自分のお金か魔力で購入、売却))
属性:無(時・空間)
持ち物:学生証・旅装束一式・スマホ(異世界仕様&充電は魔力 破壊不能オブジェクト)
所持金:15000ウェン
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「――あ、魔力が減っている」
スキルを使ったことで『魔力』が減っていることを確かめるつもりはなかったが、『ステータス』を確認したことでしっかりと『魔力』が減ったことがわかった。
そこでやはり、最初の【ルーム】は神様経由で魔法を使ったのだと理解した。
自分は助けていないと言っていたが、本当は神様が自分を助けてくれたんだと。
「それと……やっぱり。『旅装束一式』がある。こんな物持ってなかったし、多分神様がくれたもの。なら【インベントリ】に入れててもおかしくないよな。それに確か、ラノベとかでは――」
【『旅装束一式』を取り出す】
頭の中でそう考える。そして今もある亜空間の中に再度腕を入れる。
するとさっきまでは何も感じなかったのに『何か』があると確信が持てた。自分の手付近にある物――布袋を掴み、亜空間から取り出す。
「――成功だな。ただ腕を入れるだけじゃなくて、取り出したい物を頭の中で想像するか、声に出すかしないと取り出せないんだろう。それはそうか、中に何があるかわからないのに、いきなり漁っても」
納得がいったように頷くと自分の手で取り出した灰色の布袋を真っ白の地面に置く。
自分もしゃがむと結び目を解き、布袋を開ける。中からは緑色と白色が映えるロングコートと黒色のロングパンツ。黒い鞘に入る片手剣。片方だけの赤いピアス。そして一枚の折り畳まれた手紙が出てくる。
「神様だよな。手紙、読むか」
衣服とか気になったが、手紙を一度読むことにする。
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須藤金嗣君
この手紙を読んでいるということは『わし』と別れたということなんじゃな。
そして【インベントリ】を使って『わし』が君にプレゼントした『旅装束一式』を探せたようでよかった。
お別れの挨拶は『わし』がしっかりと君に伝えていると思うから、『旅装束一式』について話すことにするよ。
まず衣服。そのコートとズボンはネフェルタでもポピュラーな服装じゃ。色合いも目立たない物を選んだから着てくれると嬉しい。
流石に異世界の服。『制服』では悪目立ちしてしまうからのぅ。
次に片手剣じゃの。それは君の筋力でも扱えるような物を選んだ。片手剣など使ったことはないと思うが、持っていて損はないじゃろう。この世界で武器を持たない人種は奇異な目で見られる可能性があるからのぅ。護身用でもいい。腰に付けられるようになっておるから付けるとよいぞ。
そして、ピアス。それは君が『異世界人』だとバレない為のアクセサリーじゃ。『ステータス』についてはわしが与えた『加護』で問題ないと思うが、君の見た目は欺くことは敵わん。そのピアスを片耳に付ければ君の見た目と名前が変わる。見た目も名前も付けてからのお楽しみじゃ。
最後に
須藤金嗣君。君が妹さんを救えることを心の底から願っておる。
ここで少し補足すると君が居た『地球』と『ネフェルタ』での時間の流れは違う。『ネフェルタ』で過ごす「一年」が『地球』で過ごす「一週間」と思ってくれれば良い。なので時間は少しの猶予がある。なので無理をしてもいい。でも自分の命を脅かすような無茶な無理だけはしてはならん。君が生きていることが妹さんの、わしの希望なのじゃから。
そして、今から須藤君はこの世界で『生きる為』にスキルの練習等をすると思う。
自分が納得のいくまで『修行』を終えた後、今いる地点から北側にある『魔法国』を目指すとよいぞ。他の国は『職業主義国』じゃ。須藤君の『職業』が見られても厄介じゃし、本当の『職業』がバレたとしてもまた厄介この上ない。じゃから一番安全な『魔法国』を目指すとよい。
『魔法国』はその名の通り『魔法』で発展した都市じゃ。『職業主義国』でもなければ、人以外の種族も住み、とても心地よい国だと聞く。
最終的には君の判断に任せるが、一意見として胸の底にでも置いておいて欲しいのじゃよ。
では、よい旅路を。
お節介好きの神より
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「――ありがとう。ありがとうございます。本当に、何から、何まで――」
手紙を読み終えた須藤は俯くと暫しの間、肩を震わせていた。
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