第4話 運命に抗う



「ほほほ、いきなりそんなことを言われても困るだろうと思って作っておいたよ。ほれ」


 神はそんな軽い掛け声をすると一枚の用紙をちゃぶ台に置く。


「これは」

「うむ。その用紙には須藤君の『ステータス』が書かれている。わしが与えた職業、そしてスキルが記載されているから見るとよい」

「――俺の『ステータス』」



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  須藤金嗣(15歳 男)


L v.:1

種族:人種

職業:商人(※特殊職業:【転売ヤー(時空間魔法)】)


体力:100

魔力:50(5000)

スタミナ:50

筋力:50

防御力:50

魔防御力:50

素早さ:30

運:100


加護:なし(異世界神の加護)


スキル: 成長速度上昇 体術lv.1(時魔法lv.1【使用魔法:ロック】(使用魔力100 レベルに応じて変化) 空間魔法lv.1【使用魔法:インベントリ】(使用魔力100 レベルに応じて変化) 時空間魔法lv.1【ルーム・空間断裂スピリットエア ※時空魔法と空間魔法が使える様になる】(使用魔力500 レベルに応じて変化) 無詠唱)


(ユニークスキル:異世界言語能力(異世界の言語が理解できる))


(エクストラスキル:メルカー(スマホで地球と同じフリマアプリができる。買えるもの売れるものは自由。自分のお金か魔力で購入、売却))



属性:無(時・空間)


持ち物:学生証・旅装束一式・スマホ(異世界仕様&充電は魔力 破壊不能オブジェクト)


所持金:15000ウェン


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 細々とした内容が書いてあった。



「――」


 情報過多過ぎて遠い目をする須藤。


「ほほほ。今は上手く使えなくとも練習すればよい。時間は沢山あるからのぅ」


 須藤の姿を見れた神は満足と言った様に笑う。


(いかん、いかん。今の状況に着いて行けず、目を逸らしてしまった。ただ、このステータスは……チートなのでは?)


「まあわしが与えた最高級の加護。特別なものだからのぅ。ただ安心していい。君だけだぞぅ?」


 須藤の心を読んだ神はお茶目にそんなことを言う。


 そんな神様に色々と聞きたいことはあったが、まずは自分のステータスの気になる点を聞かなくてはと思った。


「――ありがとうございます。ただ、俺のステータスについて聞いてもいいですか?」

「うむ。聞きたいことがあるならなんでも聞いてよいぞ」

「ありがとうございます。なら――」


 そして須藤は聞きたいことを全て聞いた。



 まず自分の職場が【転売ヤー】ではなく、【転売ヤー(時空間魔法)】になっていること。そして職業欄に【商人】があること。


 元々渡した職業が【転売ヤー(時空間魔法)】。ただ『異世界神の加護』のおかげでただの【転売ヤー】だと表示された。

 職業欄に【商人】があるのは【転売ヤー(時空間魔法)】を隠す為のもの、そしてらしい。


 ()で覆われているものは先程も出た『異世界神の加護』で非表示、相手から見えない様になっている。自分が任意で見せることは可能。要は相手から勝手に自分のステータスを見られない様の識別・隠蔽。

 『異世界神の加護』で隠された情報は異世界ネフェルタの創造主直々の加護。本人か神以外は何人たりとも干渉、閲覧不可。加護を持つ本人は任意で隠せる。


 他のステータスと比べて『魔力』が高いのはスキルの『時空間魔法』の影響。

 『運』が100なのは元々の須藤のステータス。神様は『運』について介入不可。ちなみに『運』が100なのはMAX値らしい。


 『時空間魔法』。スキルは『職業』に依存する。ちなみに『時空間魔法』の派生のスキル『時魔法』と『空間魔法』はこの世界から失われた魔法。太古に失われし魔法ロストマジックの一つ。『時空間魔法』など本当はらしい。

 このスキルを『王国』の連中が見たら大変なことになる。なんせそのスキル一つで【勇者】よりも貴重で重要なスキルなのだから。


 そんなスキルを持つ須藤を『王国』は追い出したことを神様は馬鹿だと切り捨てていた。


 またステータスを任意で見たい時は右手を前に出して『ステータス』か『ステータスオープン』と言えば見れる。

 スキル等の詳細を見たい時は「ステータス」画面の見たい項目をタッチすれば詳しく見れる。


 『スマホ』と『メルカー』については自分よりも君の方が知っていると思う。と、言われてしまった。



「――後は自分でも確認出来るから暇な時に見るとよい。全て話してもつまらないからのぅ」


 神は須藤からの質問を全て答えると一息する。

 

 ただ須藤は納得が出来ないこともあった。

 


「――わかりやすい説明ありがとうございます。とても感謝しています。ですが、どうして自分だけこんな好待遇なのかがわかりません」

「……」


 須藤は神の目を真剣に見つめる。神も須藤の目を見る。

 その時間は一瞬で、のか、薄く息を吐く。


「――ふぅ。そうじゃのぅ。これは須藤君へわしからの償い……もある。でも大元は違う」

「……」

「悪いとは思っていたが、君のを拝見させて頂いた。そして、わしは手助けをしたいと思った」

「――ッ」


 神が「過去」と口にした瞬間、須藤は体を震わせると過剰に反応してしまう。そのことに神は本当にすまなそうにしていた。


「本当にすまなかった。プライバシーもプライバシー。じゃが、どうしても気になってしまい、君の過去を――を観てしまった」

「――」


 神の言葉を聞いた須藤は奥歯を噛み締め、俯く。

 

 わかっている。神様が悪意で、わざと俺の過去を見ていないことぐらい。それに神様はそんな俺を手助けする為だと言ってくれた。こんなにも凄い職業・スキル・ステータスをくれた。俺を――応援してくれている。


「――須藤君が許せないなら、殴ってくれても構わない。わしはそれだけのことをした。気になったと言うだけで、個人の――人の子の過去を見てしまった。わしは無断で介入してしまった」


 神はそう言うと目を瞑る。

 それは自分のけじめを付ける行動に見えた。


「須藤君。わしは特別な加護。職業やスキル、ステータスを君に与えた。じゃが、それは君を可哀想だと勝手に思ったからじゃ。わしは神なのになんとも罰当たりなことをした愚か者じゃ」


 その言葉を残した神は須藤の行動を待つ。


「……」


 今も目を瞑り座布団に座り、次に来る衝撃に甘んじる。


 須藤は立ち上がると神の元に歩いて行く。



 神様は自分が悪いと思っている。俺から許しを受けたいと願っている。なら、なら、俺が出来ることは――


「――ふん!」


 右腕を振り上げると――


 薄く目を開けていた神はその様子を見て「

「――なっ!?」と驚いていた。


「――神様。貴方は、は大馬鹿者だよ。ここまでしてくれた。俺を助けてくれた恩人を、殴れるわけがない……! 神様がやったことはいけないことなのかも知れない。でも、俺は嬉しかった……ッ」


 須藤はそう言うと神の近くに膝をつく。


「――須藤君」


 左頬を少し腫れさせながら、涙を流しながら自分のことを見てくる須藤の名を呼ぶ。


「この世界に来てずっと一人だった。たかが数時間の時間かもしれないけど、怖かった。心細かった。でも助けてくれる優しい騎士はいた。そしてもう一人、俺を見てくれるがいた」


 今まで溜めていた気持ちを、想いを吐き出す様に話す。

 

「――君は」


 須藤の気持ちが痛いほどわかる神はその手で須藤の頭を撫で――たかったが、躊躇ってしまう。


 その間も須藤は少しずつ、確かに言葉を紡ぐ。


「――神様、神様。俺さ、辛かったんだ。事故で両親が死んで。最愛の妹が目を覚まさなくなって……本当に、辛かったんだ。誰も助けてくれなかった。それでもいつか妹が目を覚ましてくれると思って、嫌われても良いから人が嫌がる仕事をしてお金を稼いだ。でも、何も無かった……ッ!」

「――」


 自分の思いの丈を話す須藤を神はただ見ていることしかできなかった。神も過去を見たから須藤の壮絶な過去は知っている。



 3年前、須藤一家は車でショッピングモールに赴いていた。楽しい時間。これからも続く幸福な時。そんな帰り道、居眠り運転のトラックが須藤一家が乗る車に突っ込んで来る。


 須藤が目を覚ますと病院内だった。まだ中学生に上りたての須藤は何が起こったか分からず、自分の体の痛みに顔を顰めていた。


 そんな須藤の元に病院の先生がやってきて今の状況を教えてくれた。


 と。


 話を聞いた須藤は冗談だと思った。思いたかった。でも先生達の表情、そして自分の体の怪我を見て確信してしまった。だと。


 数日後、怪我が少し治った須藤は妹、鈴音の病室に向かった。そして見たのは――目を覚まさずに穏やかに寝る鈴音の姿だった。

 鈴音の近くにいるのに何も出来ないもどかしさ。そして自分の親戚が誰一人として自分達を救ってくれない愚かさ。


 そこで決意した。



『自分がお金を稼ぎ、鈴音を元に戻す』と。



 幸い両親の貯蓄と相手側からの慰謝料があったので須藤は暮らせた。でも、今の持ち金じゃ鈴音を治すことはできない。だからまず初めに行ったことは今の持ち家を売り、妹と共に安いアパートに移り住むことだった。

 病院の人や、警察が助けてくれたおかげでなんとか、自分の思う様に行った。


 そこからは転校した中学に通いながらも自分一人でお金を稼ぐ。中学生で仕事などできない。でもやるしかなかった。身長が高かった須藤は年齢を偽り、自分自身までをも偽り、自分の青春を捨てアルバイトを転々とした。


 アルバイト漬けの須藤は近くの高校に進学する。その時には「メルカー」というフリマアプリを駆使し、周りから「転売ヤー」と嫌われながらもお金を稼いだ。


 そしてそんな時に『異世界召喚』に巻き込まれる。


 

 そんな壮大な過去を知る神は心が痛んだ。

 

 ネフェルタの神の自分は他の世界に干渉など出来ない。それに決まりで神が一個人に会話等以外に干渉が出来ても何かを自分から出来ることなどない。ただ、傍観者の様に観ていることしか出来ない。


 ただ思う。


 何が『神』だ。何が『全能』だ。人一人を救えない自分など居ても意味がない。目の前で救いを求める人の子を助けられない自分など無意味。


 須藤を始めて観て、その過去を観た神は誓った。そして禁忌を犯す。


 ただの『転移者』に渡してはいけない『職業』『スキル』を与える。そして自分から過度な接触を図った。


 この心優しい小根の持ち主を助ける為に。応援する為に。運命に打ち勝ってもらう為に。


 自分がその後どうなろうと構わない。




「――俺も罰当たりだった。願っても救いの手をくれない神を恨んだ。怨んだ。憎んだ。そして神などいないと願った。でもさ、しっかりとこうして、神様は居た。俺はそれだけで――救われた」


 今も涙を流しながら自分に感謝を伝える少年。そんな少年に寄り添う。


「――君は、頑張ったのぅ。よう頑張った」


 神は自分も涙を流し、須藤の体を優しく包む。


「須藤君。君は頑張った。そして君は凄い。君は――尊敬に値する人間だ。そんな君をわしは助けたいと思った。それは『職業』や『スキル』を授けるだけではない。わしは――君の妹さんを救う方法を知っている」

「――ッ」


 涙目のまま顔を上げる須藤。そんな須藤に教える。


「さっきも言ったが、君の過去を観た。だから妹さんのことも知っておる。この3年間意識不明だと」

「――はい。鈴音は今も目を覚ましません。俺はそんな妹を助けたい……」

「わしも同じ気持ちじゃよ。だから教えるのじゃ」


 須藤の葛藤に頷く。


 そして神は話す。


「まず、この世界には病気でも怪我でもなんでも治す万能な薬『エリクサー』と言われる物がある。ただそれは非常に高値で、入手困難じゃ。でもオークション等で手に入ることもある。だから須藤君は『エリクサー』を入手するのじゃ」

「『エリクサー』……はい。ただお金なんてそんなに直ぐに手に入らないですよ……」

「そこで君に渡した『職業』と『スキル』じゃよ」

「職業にスキル――! そ、そうか。商売をするための『商人』の『職業』もあるし、スキルを育てれば――」


 神の話す内容を理解すると色々と考える。そんな須藤の姿を見た神は笑みを作る。


「うむ、その調子じゃぞ。そして恐らく須藤君が思うこと――『エリクサー』をもし手に入れても、じゃ」

「そ、そうだ……地球に帰らなくちゃ、鈴音に合わなくちゃ――神様、どうすれば、良いでしょうか?」


 縋るように不安そうに見てくる須藤に案ずるでないと言うようにウインクをする。


「安心してよい。わしは神じゃよ? 。後は君の頑張り次第じゃよ」

「……『職業』――そうか! 【転売ヤー(時空間魔法)】があれば【転移】が。それに神様の言う口ぶりだと【転移】よりも上位のスキルが……」

「そうじゃ。それは後にわかるので、頑張りなさい」

「――はい」


 最後にそう伝えると須藤の頭を軽く撫でて、神は少し名残惜しそうに離れる。



「この世界は君達が居た地球より文化は劣っているが、魔物がいたり剣や魔法が存在するファンタジー溢れる世界じゃ」


 そして一度言葉を止めた神は立ち上がり両手を上げる。


「そう、この世界は『魔法』がある。君が居た様な地球での『科学』では証明出来ないことが出来る世界。そして君は今、此処に居る」


 神がそう言うと神の体が眩き、光出す。


「――時間かのぅ」

「――神様?」


 神の異変に心配する須藤。そんな須藤をこれ以上心配させまいと笑みを作ると最後に――嘘をつく。


「大丈夫、わしは天界に戻るだけじゃよ。それにもしかしたらまた、会えるかもしれない。だから最後にこの言葉だけ贈ろう」


 神がそう言うとその体は一段と光り輝く。



「――君は他の者達と同じ様に『魔王』など討たなくてよい。君は、君がしたいことをしなさい。決まった道など歩く必要はない。後ろ指を差されてもよい。馬鹿にされてもよい。須藤君――この世に不可能などないのじゃよ。だから前を進み、自分の信念を貫き、運命に打ち勝ちなさい」


 最後にニカッと笑うと神はその姿を霧のように消えていく。


 その時に「どうか、この先の旅路に……幸在らんことを……」そんな声が聞こえた。


 須藤は既に神の姿が無いのに見上げる。


「――はい、はい。俺頑張ります。だから、神様、見ていてくださいね」


 その言葉だけを残し、須藤は想いを馳せる様に胸に手を置き、目を瞑る。


 自分の恩人に約束をする。


 



 



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