第112話:恋愛……?
「恋愛、恋愛……恋愛?」
呪文のように繰り返すフローレスを、使用人達は遠巻きに見守っていた。
先生と教授……レオノールとヴィルジールの話を書こうとしたら、レオノールに止められてしまった。
「別に書くのは良いのよ。でも今は、ホワイトの話を打診されているのでしょう?そちらを書き上げてからにした方が良いわ」
そう諭されてしまったのだ。
「ずっと続くシリーズならともかく、今回のホワイトがハッピーエンドになったら、シリーズも完結でしょう?」
確かに、とフローレスも納得した。
自分が読む側だったら、作品の世界観が薄れる前に続編を読みたい。
しかもそれがシリーズ完結となるならば尚更。
しかし納得したからと、即書けるものではない。
今までの、打算ありきな作品では無い。
今回は純粋に恋愛小説を書かなければいけないのだ。
「恋愛……ねぇ。猫が好き、ケーキが好き、
フローレスの呪文の内容が変わってきた。
「先生が好き、教授が好き……ソレンヌが好き、ジョゼフが好き、ローゼンが好き」
周りの人間を思い浮かべながら、好き好き言い出した。
レオノールとヴィルジールの呼び方は、パーティーが終わってから完全に戻ってしまっている。
そして、使用人の1番最初がローゼンだった事で、本人は目をウルウルさせて喜んでいる。
そこから執事長、メイド長、料理長へと移っていく。
「オーブリー様は好き……かな?」
少し変わってきた。
「アダルベルト殿下は……好き、ではないわね。嫌いでは無いって感じかしら」
本人が聞いたら泣きそうである。
そもそもオーブリーとは敬称が違う時点で、察せられる。
「マティアスさんは、好きとか何とかではなく、信頼している……わね」
こちらも微妙な判定が出た。
恋愛対象とは言い難い。
「あぁ、もう!今までは、見本が居たから書きやすかったのよね!」
フローレスがテーブルへ突っ伏してしまった。
「……私って性格悪いのかしら」
【ピンキー】と【ベリアル王太子】の話は、面白いほど話が浮かび、心の中で『さぁ皆、誤解してルロローズを王子妃に推して!』とほくそ笑んでいた。
今まで読んだ小説の内容と、実際の
【セルリアン】も、兄ホープが嫌がりそうな恋愛至上主義に仕立て上げる事で、サクサクと話が思い浮かんだ。
ある意味兄と正反対の男性像にすれば良かったのだ。
皮肉な事に、それが読者の共感を得て、『理想の恋人』『素敵な旦那様』との反響がフローレスに届いていた。
「ホワイトを幸せにする恋愛が、思い付かないわ……」
最初に戻ってしまった。
「もう駄目だわ。これは協力をお願いしましょう。疑似恋愛としてデートでもしてもらって、普通の女子が喜ぶ事をまず体験しましょう」
呟いたフローレスがガバリとテーブルから起き上がる。
「ローゼン」
後ろに控える侍女の名を呼ぶと、フローレスが説明する前に「かしこまりました」とお辞儀をして去って行く。
フローレスの「協力」と言う言葉だけで、その相手を判断したようだ。
翌日、マティアスから『ご都合の良い日取りを教えてください』との連絡が来た。
貴族の定番デートではなく、庶民らしいものにしましょう、との提案もあり、フローレスの心を図らずもワクワクさせた。
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