第104話:そして誰もいなくなった
ペアラズール王国の執務室で、王太子は耳を疑う報告を受けていた。
「私の聞き間違いか?バロワン王国で王太子妃がオルティス帝国の皇族を怒らせた……と聞こえたのだが」
王太子の問いに、従者は頭を下げる。
「聞き間違いではございません。そのように報告いたしました」
従者の返答を聞き、何かに気付いたように「あぁ!」と笑顔を浮かべる。
「バロワン王国の王太子妃が、オルティス帝国の皇族を怒らせたのだな?」
笑顔で従者に問うが、目は笑っておらず必死だ。
「いえ。我が国の王太子妃が、怒らせました」
王太子は頭を抱えた。
「次期皇帝の結婚式に招かれなかったペアラズール王国を、オルティス帝国属国のバロワン王国には呼べないと言うので一人で行くのを許したが……間違いだった」
頭を抱えたまま、王太子は目を閉じる。
なぜ、自分ばかりがこのような辛い目に。なぜ、皆に足を引っ張られるのか。
優秀な、自分を支えてくれるはずだったフローレスは、もう居ない。
ついほんの2年前までは、第二王子のベリルとフローレスが結婚して外交官となるはずだったのだ。
それをベリルは、ただ勉強が少し出来て、見た目が可愛いだけの愚かな妹の方を選んでしまった。
王太子を支えるはずだったベリルは、完全なお荷物で邪魔者になった。
しかもベリルの選んだルロローズは、オルティス帝国の第三皇子であるアダルベルトを敵に回していた。
意気消沈……いや、魂が抜けたような状態で、王太子妃がバロワン王国から帰国した。
「何をした?」
執務室で王太子が妻である王太子妃を問い詰める。
王太子妃は、下を向いたままボソボソと何かを言っているが、声が小さ過ぎて何を言っているか聞こえない。
「ちゃんと説明をしろ!」
王太子は、王太子妃を怒鳴りつけた。
結婚してから初めての事だった。
「フローレスに、契約している出版社経由で建国パーティーの招待状を送っただけよ!第三皇子と仲良しなのでしょう?それに兄のホープが第二皇女の王配になったのだから、平民に落ちたフローレスに会える機会を作って差し上げただけよ!」
一気にそこまで言い、王太子妃は息を吸い込む。
「その代わりに第二皇女への仲介を命じておいたのにあの女……」
王太子妃が爪を噛む。
「そしてそれが上手くいったら、オルティス帝国から圧力を掛けて、私と離縁するつもりだったのだな」
王太子の台詞に、王太子妃は目を見開く。
「そ、そんな事は考えておりません!私はこの国の為に……」
王太子妃の言葉は、途中で途切れた。
王太子が目の前に突き出して来たのは、離縁した際に慰謝料として請求しようとしていた物が書かれたリストだった。
「ペアラズール王国がオルティス帝国に見限られた事により、バロワン王国での自分の立場が悪くなった事に対する慰謝料……か」
なんだそれ、と王太子が鼻で笑う。
「もうお前自身が嫌われ、バロワン王国が属国を外されたそうじゃないか」
王太子妃の目の前でリストがゆっくりと破られていく。
「勝手に出て行け。もうお前は王太子妃では無い」
王太子妃の件が発覚した時、すぐに色々と王太子妃の周りが調べられた。
そして王太子を陥れようとしている事、離縁を計画している事が露見したのだ。
「何よ!今まで何もしなかったくせに!何でこんな時だけ行動するのよ!嫌よ!バロワンにはもう帰れないのよ!」
泣き叫ぶ
「私の周りには、
王太子は天井を仰いだ。
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