第81話:出演許可
時は少し遡り、フローレスが無意識にホープを追い詰める前の事。
フローレスはメモ紙を前に、何やら真剣に悩んでいた。
原稿用紙ではないので、話に詰まったとかではないようだ。
紙には【緑の女王と氷の侯爵】と【ホープ=セルリアン】と書いてある。
「どうなさいました?」
ローゼンがチョコレートと珈琲を出す。
甘めのチョコレートを口に入れ、甘くない珈琲で溶かしながら食べるのが、最近のフローレスのお気に入りだ。
「女王様の名前をどうしようかと思って。今までイメージカラーで揃えてきたでしょう?」
フローレスが自分の髪を摘む。
確かに【ホワイト】に【ピンキー】と【セルリアン】、全て髪色を基にしている。
「エメラルドだと、ちょっと青みが強過ぎて
「出すんですか?」
「予定は無いけど、前作に出ているし一応空けておきたいわね」
前回は了承を取っているが、今回は無理だろうとは思ってはいた。
「こういう時に、担当に相談するのでは?」
ローゼンの提案に、なるほど!とフローレスが頷いた。
「それでは、出版社の方へ連絡を入れておきますね」
そうローゼンが言っていたのが確か午前のティータイムだったな、とフローレスは目の前の青年を見る。
今はお昼過ぎである。
昼食を食べ終わり、ほっとひと息な時間。
意外と出版社って暇なのかしら?
そんな事すら考えてしまう。
今回のマティアスの服装は、前回の貴族らしい物よりは大分くだけて、裕福な平民という感じだ。
「今日もきらびやかな服で来たら追い返したのに」
ローゼンが残念そうに言っていたのを聞いて、フローレスが首を傾げる。
「呼んでおいて?」
「勘違い野郎をお嬢様に近付けるのは嫌なので」
確かに貴族を盾に近付いてくるなら、たとえ担当でも遠慮したいと、フローレスも思ってしまった。
「これって、オーブリー第二皇女がモデルですよね」
マティアスがフローレスの話を聞いて顔を青褪めさせる。
自国の更に上の国の皇位継承権第1位を皇族をモデルにしても良いのかと、不安になったのだろう。
「了承なら貰ってますよ」
教授の手紙に同封されていた第二皇女からの手紙を手渡す。
フローレスから渡された手紙を手に、マティアスは震えていた。
侯爵家令息だったので、その手紙が間違い無くオルティス帝国第二皇女からだと判ったのだろう。
「これは私が見ても良いものですか?」
マティアスの問いに、フローレスは何でもないように頷いた。
渡された手紙を
要約すると『弟が作品に出演して悔しかった。自分の方が先に好きになったのに。でも彼は脇役で、自分は主役。好きにして良いわよ!』だった。
「前回の緑の君は……」
「アダルベルト第三皇子殿下ですね」
「こちらも」
「勿論、許可は貰いましたよ」
当たり前でしょう?と答えるフローレスを、マティアスは笑顔で見つめる。
その目が死んでいるのはしょうがないだろう。
「俺が担当で本当に良かった!」
後々マティアスはそう力説していた。
もう一人の担当候補だった人物は現役の子爵令息で、上昇志向の強い貴族だそうだ。
オルティス帝国の皇族と繋がるフローレスを、絶対に利用しようとしただろう、と嫌そうに話していた。
出版社の仕事も腰掛けで、人脈を広げたい為にしているらしい。
それなので、貴族相手の原稿の回収など、当たり障りのない仕事しかしないそうだ
そんな人が担当になってたら、もう書かなかっただろうなぁ、とフローレスは目の前で力説するマティアスを眺めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます