第76話:辺境の街にて、幸せに

後半、センシティブな内容があります。

ご自衛ください。

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 ルロローズは、とんとん拍子に進んだ結婚までの道程を、周りに祝福されているからだと素直に喜んだ。

 いつの間にかドレスや宝飾品が減っていたが、王子妃になる為に、気を利かせたメイドが整理したのだろうと勝手に納得していた。

「これからどんどんドレスも宝石も増えるものね!」

 嬉しそうに言うルロローズを見る使用人の目は冷たかった。


「新婚旅行先が片道1ヶ月って、凄いわよね!」

 素直に喜ぶルロローズに、使用人は「そうですね」と感情のこもらない声で応える。

 しかしそれにも気付かないほど舞い上がっていたのだろう。

 旅行に行くには多過ぎる荷物にも、ルロローズは一切疑問を持たなかったのだから。




 署名だけの結婚を済ませ、ルロローズ付きのメイドと両親、そしてベリルは辺境地へと出発した。

 護衛は王家が用意した者で、オッペンハイマー家からは一人も出していない。

 盗賊に襲われようが、獣に殺されようが構わないというホープの気持ちの表れだが、それに気付ける者は居ない。


 いや。ルロローズ付きのメイドは、最後まで一緒に行くのは嫌だと抵抗していたので、気付いていたのかもしれないが、だからといって言って何も出来やしない。

 浮かれるルロローズと、魂の抜けたようなメイド。

 その奇妙な対比は、行く先々の街で噂になる程だった。



「ルロローズが結婚か。帝国の第三皇子に取られないかと不安なのだろうな、第二王子は。いや、今はオベリスク伯爵だったな」

 オッペンハイマー元伯爵である。

 途中の街で泊まる宿では、ルロローズと両親が必ず同じ部屋だった。

 新婚なのに、ベリルとルロローズの部屋が別な事に、三人は何も思わない。


「面倒なお仕事とかしなくて良くなったのだもの。伯爵でも充分よね。何もしなくて良いと陛下にも言われたのでしょう?」

 妻の元伯爵夫人がルロローズに話し掛ける。


「そうなのよ。せっかく4カ国語も覚えたのに無駄になっちゃった。でもしょうがないわよね。私が表に出ると、が嫉妬して何をするか判らないでしょう?」

 ウフフ、とルロローズが笑う。

 本気でそう思っているのだ。


 愚かな三人が真実を知るのは、1ヶ月掛けて辺境の街へ辿り着いた後だった。




 初夜の為に用意された部屋には、ベリルの他に護衛として付いて来た複数人の男が居た。

「あの、さすがに純潔の確認は、女性にして欲しいんですけど」

 王族などは純潔の確認の為に、初夜の場に見届人を置く事があった。

 医師資格の有る者か、神殿所属の初老の男性である事が多い。


 間違っても、今居るような年若い男性では無い。

 さすがにルロローズも、何かがおかしいと気付いていた。


「ローズ、俺では君を満足させられないんだ」

 夜着の前を開いたベリルは、下着を着けておらず、全裸だった。

「キャッ」

 可愛く悲鳴をあげ顔を隠したルロローズだったが、指の隙間から見えた事実に演技をする事も忘れ、ベリルの股間へ顔を近付ける。


「何、これ」

 そこには有るべきものが無く、醜く引きれた縫い痕が有るだけだった。

「さすがに誰彼構わず、とはいかないだろう?」

 青褪めるルロローズにお構い無しで話を続けるベリルは、後ろの男達を指し示した。


「彼等はその為に付いて来てくれたんだ。この1ヶ月一人で大変だったけど、これからは夫婦で頑張ろうな、ローズ」

 どこを見ているのか判らない瞳で笑うベリルを、ルロローズは不気味な物を見るように見つめた。




 その後、ルロローズは三人の子供を出産し、それなりに楽しく暮らした。

 メイド達も子供を産み、メイド兼乳母となった。

 メイド達は誰も結婚していなかったが、貴族ではないので、誰も気にせず、誰も咎めなかった。


 奇妙な同居生活の中で、ベリルだけが一人静かに遠くを見つめている時があった。

 そういう時に隣りに居るのはルロローズではなく、王都から付いて来た男のうちの一人だったが、それを疑問に思う人間はこの屋敷の中には居ない。


「ベリル様、体が冷えてしまいます。戻りましょう」

「あぁ、そうだな」

 ベランダに出て、遠い世界へと思いを馳せていたベリルは、賑やかな現実へと戻る。

 屋敷の中からは、甲高いルロローズの笑い声が聞こえてくる。


「そろそろ子供達には、平民として生きる教育を始めないとだな」

 疲れた声でベリルは呟いた。




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73話。精巣摘出を、生殖機能へと変更しました。

玉取り→全摘に変更です。

去勢は全摘にも適応される意味みたいなので、そのままです。

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