第69話:日常が崩れる時
何日かぶりで戻った侯爵家で、ルロローズは
王宮でも高待遇だったが、やはり住み慣れた我が家は安心感が違う。
優雅に紅茶を口に運び、上品に一口飲み……止まった。
眉間に皺を寄せながら、もう一口飲む。
そして
「ねぇ、いつものメイドを呼んで」
ルロローズが部屋の隅に控えるメイドへ声を掛ける。
三人控えるメイドのうち、二人が顔を見合わせた。
ルロローズ付きのメイドである。
この二人だけは、年が近いからとルロローズ付きになったメイドで、ルロローズの味方だった。
「いつもお茶を
申し訳無さそうにメイドが言うと、ルロローズは目を吊り上げて怒り出した。
「はぁ!?たかが旅行に行くのに、何人もメイドを連れて行ってるの?」
テーブルを強く叩いた事により、カップが揺れて中身の紅茶が
もう一人居たメイドが無言でテーブルへと近寄り、カップを片付けて零れた紅茶を拭く。
テキパキとした動作で作業を終えると、そのままワゴンを押して部屋を出て行った。
そしてそのまま、いくら待っても戻って来なかった。
ルロローズ付きのメイドが紅茶を取りに行くと、先程のメイドが夕食の手伝いをしているのが見えた。
「何で戻って来ないのよ」
コッソリと聞くと、そのメイドは首を傾げる。
「淹れ直すように言われませんでしたし、紅茶を零すのは、不味いから下げろって意味ですよね」
貴族の暗黙のルールを言われ、ルロローズに限っては単なる
ルロローズが小さい頃から居た使用人が殆ど居なくなり、普通に優秀な使用人へと変わった。
「またやってるよ、しょうがないなぁ」と流せる使用人ではなく、その言葉や行動をそのまま受け止める使用人が殆どなのである。
「そんな可愛くない髪留め捨てちゃって!」
その日の服装に合わないからとルロローズがそう言えば、今までの使用人なら「はい」と返事をしながらも、また仕舞っておいた。
しかし今の使用人は、本当に捨ててしまうのだ。
上司であるメイド長に確認するが、メイド長も新しく雇われた者である。
「勿体無いですが、命令に背くわけにはいかないですからね」
そう言って了承してしまっていた。
「王子妃教育の中止?」
王宮から届いた書簡を確認して、オッペンハイマー侯爵夫妻は驚き過ぎて固まっていた。
第二王子の正妻として、公爵夫人として、これから国の為に主に外交を
答えは簡単だった。
2枚目の便箋に、きちんとその理由が書いてあった。
『ベリル・ザ・ドム・ペドロ・オベリスクは、王族籍を完全に抜け、ベリル・オベリスク伯爵へと臣籍降下される。
外交等へは関わらず、
オッペンハイマー侯爵夫妻の視線が、もう1通の書簡へと向く。
そう。
オッペンハイマー侯爵宛に、もう1通王宮から書簡が届いていた。
震える手で何とか封を開け、中から紙を取り出す。
『此度の騒動の責任により、伯爵位への降格を命ずる』
ただその1文だけが書かれていた。
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