第50話:卒業式 正論




「この見事な緑色を見て、本気で言っているのですか?」

 フローレスの言葉に、ルロローズは首を傾げる。

「前に宝飾店で会った女の人の方が綺麗な緑でしたよ?」

 だから何だと言うのだ。

 そんな気持ちでフローレスがルロローズを見つめていると、ルロローズが第二王子の陰に隠れる。


「いや!怖い!お姉様、また私を虐めるのですね!?」

 いやいや、今まで普通に会話してただろうが。

 さすがに会場の生徒達もおかしいと気付き始めたようだ。

 サワサワと話す声がしてきた。



「姉が帝位継承第1位ですからね。私は次点です」

 空気をでアダルベルトは話を続けた。


 思っていた以上に相手の立場が上だった第二王子は、フローレスを睨み付けた。

 攻撃対象を変えたのか、高位な者を連れて来た事への抗議か。

 いや、元々フローレスをいわれの無い罪で責めていたのだった。



「一つ確認しても良いですかね?帝国と王国じゃ常識が違うようなので」

 アダルベルトがにこやかに手をあげる。

「な、なんだ」

 戸惑った第二王子の返答に、アダルベルトの笑みは更に深くなる。


「貴方とフローレス嬢が婚約関係だと仮定して、私とフローレス嬢が出掛けるのは不貞行為で、貴方とルロローズ嬢がデートするのは真実の愛?なのはなぜですか?男女で差が生まれるのはなぜですか?」

 帝国は男女平等なので、とアダルベルトは付け足す。


 第二王子は言葉に詰まった。

 ここでの返答は、非公式とはいえペアラズール王国としての総意になるだろう。

 男の浮気は甲斐性、女の浮気は不貞。

 貴族の暗黙のルールではあるが、公式に口にして良い事では無い。


 しかも、ルロローズと第二王子がデートしても問題は無いのだ。

 しかしそれを言ってしまうと、このフローレスへの断罪劇が根底からくつがえってしまう。

 むしろ自分達の立場が悪くなってしまうだろう。

 本来、皆の前でをして、婚約者の挿げ替えをする理由など無いのだから。



「え~、だって私は婚約者候補だからデートしても良いに決まってるじゃない」

 自分が責められた事に我慢が出来なかったのだろう。

 今まで王家が隠してきた事を、ルロローズがポロリと簡単にバラしてしまった。


 顔面蒼白になる第二王子と、天上の微笑を浮かべるアダルベルト。

 フローレスからは表情が抜け落ちていた。どのような表情をして良いのか解らなくなったのだろう。




「ああああの!突然の発言をお許しくださいませ」

 一人の令嬢が立ち上がる。

「はい。何でしょう?」

 アダルベルトが許可を出す。


「フローレス・オッペンハイマー侯爵令嬢も婚約者では無く、婚約者候補という事でよろしいのでしょうか?」

 近くの席の令嬢が二人、支え合うようにして立ち上がる。

「あの、私も失礼します。それならば婚約破棄では無いのではないでしょうか?」

「ル、ルロローズ様を婚約者に選べば良いだけなのに、なぜここでこんな事をなさっているのでしょうか?」


 フローレスは、驚いて三人の令嬢を眺めていた。

 立ち上がって発言したのは、いつものあの三人の令嬢である。

 もしかしたら三人は、ずっとこの機会を狙っていたのかもしれない。



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