第51話:卒業式 悪足掻き




 第二王子は焦っていた。

 このまま婚約者の選定に入れば、全てにおいて優れているフローレスが選ばれるのは確実であった。

 第二王子自身にもどちらが選ばれたのか、当日まで知らされない。

 決定内容に不満をいだき、選ばれた者を排除しようとした者が過去に居たからだ。


 フローレスを、ルロローズを婚約者にする。


 絶対に上手くいくと、ルロローズは太鼓判を押していた。

「だって世間で私達は、真実の愛で結ばれた関係なんですよ!皆が味方してくれます!」

 そう言っていた。



「それにフローレスは、不貞行為をしてますからね」

 そうも言っていたのだ。

 そうだ。不貞行為だ。

 第二王子は光明こうみょう見出みいだした。


 第二王子は、フローレスを睨み付けた。

「婚約者候補であろうと、お前がそこの男と不貞をした事実は変わらない!」

 を指差す第二王子は、勝ち誇った顔をしている。



 質問を無視された三人の令嬢は、顔を見合わせてから席に座った。

 驚いたフローレスの顔を見られた事に、三人でコッソリと喜んでいた。


 それに、第二王子と王家のフローレスに対する誠意のなさに、怒りを覚えていた三人の令嬢。

 第二王子をやり込められて、ちょっと溜飲が下がっていた。




「一緒に出掛ける事が不貞行為ですか。二人きりで出掛けた事など無いのですがねぇ」

 第二王子の咎める台詞に反応したのは、フローレスではなくアダルベルトだった。


「嘘を言うな!ローズが見ていたと言っただろうが!言っておくが侍女は数には含まれないからな!」

 もしそれが本当ならば良いが、ルロローズが間違っていた場合はどう責任を取るつもりなのだろうか?

 実際に間違えている。


 フローレスは冷めた視線を第二王子へと向ける。

 隣のアダルベルトは楽しそうだが、気付かない振りをした。



「アダルベルト殿下が令嬢と出掛けたのは、私のサロンの事ですかねぇ?」

 教授が関係者席で、手をあげていた。

 関係者席!?

 フローレスは教授を二度見する。

 学園の卒業式の関係者席は、学園の関係者というよりは、本人の持っている地位や爵位が物を言う世界だ。


 教授が今居る席は、揺るぐ事の無い者が座る席だった。

 緑魔法の第一人者だからと、座れる席では無い。


「そうですよねぇ。プリュドム公爵閣下の緑属性研究サロンへ、私とデトゥーシュ伯爵夫人とフローレス嬢の三人でいつも伺っておりましたよねぇ」

 アダルベルトが教授へ笑顔を向ける。

 デトゥーシュ伯爵夫人とは、王子妃教育の教師だった先生の名前である。


 王子妃教育を任される伯爵夫人の信頼度の高さは、言わずもがなである。

 フローレスとアダルベルト殿の不貞疑惑は、完全に晴らされてしまった。


 第二王子とルロローズは、確たる証拠も無いのにフローレスを「不貞をしていた」とおおやけの場でなじり、おとしめようとしたのだ。

 完全な寃罪である。



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