第49話:卒業式 勘違い、あぁ勘違い




 壇上で勝ち誇っている第二王子とルロローズを見て、フローレスは笑った。

 余りにも滑稽で、周りが見えていない二人。


「やっぱり不貞を働いていたのね」

 背後から、そんな声が聞こえてきた。

「可哀想なお二人」

「第二王子とルロローズ様は真実の愛を貫いたのに、フローレス様はルロローズ様の先生と不貞だなんて!汚らわしい」

「しかも緑の君はルロローズ様を愛しているのよ」

「きっと何かたくらんでいるんだわ」

「王族との婚約を何だと思ってるのかしら」


 サワサワと囁かれる生徒達の話に、どれだけの保護者が顔色を変えただろうか。

 自分が意図した噂とはいえ、フローレスは呆れてしまった。

 少し調べれば、真実が判明するのに、と。


 やはりこの国から逃げ出すのは正解のようである。


「ねぇ、やらないの?」

 フローレスの耳元でアダルベルトが囁く。

 どこか楽しそうである。

「何かもう、面倒臭くなっちゃったわ」

 口の端を持ち上げているフローレスは、笑顔と言うには余りにも冷たい表情だ。


「ねぇ。それなら私がやっても良いかな?」

 不穏な台詞に自分の横に立つ人物の顔にフローレスが目を向けると、キラキラと瞳を輝かしている少年のような表情をしたアダルベルトがいた。

 フローレスが真実を語りやり込めるよりも、オルティス帝国の第三皇子に指摘された方がさぞかし二人には痛手だろう。

 王国的にも。


「どうぞご自由に」

 フローレスは、アダルベルトに微笑んだ。

 先程までとは違い、本当の笑顔だった。




 アダルベルトは、フローレスをエスコートして壇上へと上がった。

 生徒達が「図々しい」「一国の王子と同じ場に立つなど不敬な」などと、アダルベルトへ向けて嫌悪の感情をぶつける。

 この判り易い緑の髪と瞳に整い過ぎた美貌を見ても、まだ「どこかの小国の王子」という噂を信じている生徒の多さに、フローレスは密かに驚く。


 それでも生徒達を観察すると、高位貴族の令息令嬢は顔色を悪くしていた。

 例の三人の令嬢は、顔色こそ悪くないがフローレスを心配そうに見つめている。

 ちょっとだけ胸が温かくなったフローレスだった。



「何だ!今更謝ってもお前等の罪は消えんからな!」

 第二王子が叫ぶ。

 それを見て、アダルベルトは自身の胸元に手をやり胸を張った。

 その偉そうな態度に、第二王子は怒りを更に高める。

 その態度に、保護者席から「ヒッ!」と小さな悲鳴があがった。


「前にも名乗ったのですが忘れているようなので、もう一度自己紹介しましょうか。アダルベルト・ディエゴ・オルティス。オルティス帝国第三皇子です」

 頭を一切下げずに名乗るその姿は、どちらの格が上かを物語っていた。



「オ、オルティス帝国でも第三だろ?俺は第二王子だぞ!」

 はぁ?本気で言ってるの?

 さすがにそんな空気が会場内に蔓延する。

 それを感じたのか、ルロローズが「でも!」と声をあげた。


「オルティス帝国って生まれ順関係無いんですよね?確か生まれ持った色で、王位継承順位が決まるはず!」

 苦戦した王子妃教育で覚えた事だからだろうか。

 ルロローズが得意気に言う。

「なるほど!それなら継承順位が更に低いんだな!」

 第二王子もフンッと鼻から息を吐き出し、偉そうにする。


 フローレスの目がすがめられた。

 とても淑女としてはあるまじき表情だが、今は壇上で向かい合う二人にしか見えていないので良しとした。

「この見事な緑色を見て、本気で言っているのですか?」

 フローレスの様子が断罪される側の態度では無い事に、第二王子とルロローズはやっと気が付いた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る