第46話:それぞれの思惑




 卒業式当日。第二王子は婚約者候補である二人を迎えに来たはずなのに、なぜかフローレスの同乗を拒否した。

 ルロローズだけをエスコートすると、フローレスの目の前で馬車の扉を閉めてしまう。

 さすがに驚いて立ち竦むフローレスへ向かい「貴様のような奴を王家の馬車には乗せられん!汚らわしい」と叫んで出発してしまった。


「第二王子殿下は何を言っているのだ?」

 最後だからと、見送りに出ていた兄のホープが呟く。

 フローレスが首を傾げて応えると、それを見たホープは溜め息をいた。

「私が送ろう」

 ホープは手を上げて執事を呼ぶと、家の馬車を用意するように指示を出した。



「まさかとは思うが、第二王子殿下は不貞の噂を信じているのではあるまいな」

 学園内に蔓延しているフローレスとアダルベルトの噂の事を指していた。

 ホープは侯爵家の嫡男である。

 噂を知っていて、その真相を調べていても不思議は無かった。

 それでも放置していたのは、あくまでも学園内の噂である事と、事実無根だからだろう。


 市井の噂は流行の本の影響なので、新しい物語が流行はやればすぐにでもすたれるのは予想出来たので、こちらも放置されていた。

 フローレスも同じ考えなので、本の力を借りたのだ。

 いつまでも残られてしまうと、今後の自分の人生に影響が出る。

 その為に、微妙に現実と設定を変えたのである。



「それほどまでに嫌なのであれば、両親に相談すれば良かったものを」

 誰に言うでもなくホープが呟く。

 周りが侯爵家後継者の意を汲み対処する事が当たり前なので、ホープはこのように自分の意見を言う事が多い。


 所謂いわゆる「私は独り言を呟いただけで、周りが勝手にやった」という状況を作っているのだ。

 逆に後から「私は忠告した」と、言えるような状況でも使われる。

 自分に都合が良いように、いくらでも変えられる。

 この卑怯な手法が、フローレスは嫌いだった。


 今回は、後者である。

 おそらくフローレスがあの小説の作者で、噂を操作していた事を把握しているのだ。

 だがそれを指摘せず、後でそれがバレて問題になった時に「自分は両親に相談するように言った」と言うつもりだろう。


 どうりで学園まで送るなどと珍しい事を言い出したと思った、とフローレスは溜め息を飲み込んだ。




 馬車の中では、静かに学園に到着した。

 ホープが小さく舌打ちしたが、フローレスはそれも聞こえない振りをした。

 反応したら、相手の思う壺である。


 馭者が扉を開け、ホープが先に降りてフローレスへと手を貸した。

「ありがとうございます、ホープお兄様」

 周りへと聞こえるが、はしたなくない絶妙な声量でフローレスはホープへとお礼を言う。

 第二王子殿下に置いて行かれたフローレスは、兄にエスコートされて来たのだと周囲に印象付ける為だった。



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