第47話:卒業式 入場−答辞




 在校生全員が講堂へ集まり、保護者も見守る中、卒業生が入場した。

 3年生は男子生徒が多く、2年生が女子生徒が多いのはいつもの事である。

 本来男女は別々で入場するのだが、ルロローズと第二王子は、夜会に入場するかのように腕を組んで入場した。

 おそらく、婚約者はルロローズだと見せつけたいのだろう。


 しかし講堂内の反応はイマイチ悪かった。

 それはそうだろう。二人はすっかり忘れているが、表向きの婚約者はフローレスなのだ。

 フローレスが婚約者から婚約者候補に格下げになり、ルロローズも婚約者候補になった事は、王家により伏せられている。


 生徒達にはともかく、保護者には単なる不貞行為にしか見えないだろう。

 王家が素直に、フローレスとルロローズの二人が婚約者候補である事を発表していれば、この様な微妙な空気にならなかったのに。


 フローレスは扇の陰で笑った。



 開会の挨拶、学園長の挨拶、来賓客からの祝辞、在校生からの送辞と式は進む。

 後は卒業生の答辞と、国王陛下からの御挨拶を残すだけである。


 第二王子は答辞の為に、既に舞台ウラへ移動している。

 なぜかルロローズも居ないが、フローレスは気付かない振りをした。

 どのような言い訳で二人で一緒にいるのだろうか。


 もしかしたら、式の進行を行う人達も協力者なのだろうか?

 泥舟なのに。

 フローレスは高笑いしたくなるのを、グッと堪えた。




「卒業生答辞」

 舞台上の進行役が音声拡声器を使い、講堂内に次に行われる事を説明する。

「ベリル・ザ・ドム・ペドロ・オベリスク、ペアラズール国第二王子殿下」

 第二王子が呼ばれ、少しだけ生徒達がざわついた。

 答辞は学年首席が行うのが常である。 


 今までの慣例であれば、フローレス・オッペンハイマー侯爵令嬢では?

 第二王子殿下は、3年生へ進級しないで卒業するのか?

 そうは思っても、誰も異議は唱えなかった。

 ただ、なぜか妙な胸騒ぎだけは感じており、皆が落ち着かなかった。



 第二王子が壇上へとあがる。

「この良き日に、皆と共に卒業出来る事を、私は誇りに思う」

 晴々とした顔で挨拶をする第二王子を見て、生徒達も保護者も心配は杞憂だったのだと胸を撫で下ろした。


 その直後である。


「この良き日に、もう一つ皆に知らせたい事が有る!私はフローレス・オッペンハイマーとし、ルロローズ・オッペンハイマーと新たに婚約を結ぶ事とする!」

 第二王子が手を差し伸べると、ルロローズが階段を登り、その手を取った。


「フローレス!貴様も来い!」

 壇上で第二王子が叫ぶ。

 フローレスは視線を壇上から保護者席へと移した。

 特別席が設置されており、そこには国王と王妃、第一王子が居た。


 三人共、離れた場所に居るフローレスから見ても判るくらい顔色が悪い。

 しかも前を向いたまま、なぜかフローレスの方を見ようともしない。


 なぜだろうと思ったフローレスの視界で、動く影があった。

 フローレスの方を向いて小さく手を振ってくる。

 王家の三人の陰で見えなかったが、アダルベルトが参列していた。



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