第44話:ヒロインは私




 ルロローズは焦っていた。


 姉のフローレスから婚約者の第二王子を奪うまでは、直ぐに出来た。

 未だに「第二王子殿下」呼びのフローレスに比べ、自分は直ぐに「ベリル様」と名前で呼ぶ許可を貰ったと。

 フローレスが婚約者から、婚約者候補に落ちるのも、あっと言う間だった。


 それはそうだろう。

 冷たくて可愛げが無い姉。

 可愛い可愛い愛される妹。

 それがオッペンハイマー侯爵家の常識なのだから。



 最初のつまずきは、王子妃教育の他国の情勢などだった。

 ルロローズは頭は悪くないのだが、応用が利かないのだ。

 特に内戦を繰り返している敵対国の、ころころ変わる情報に苦戦していた。


 一度授業中に、我関せずで本を読んでいるフローレスに話を振った事があった。

 フローレスの教育は何年も前に終わっていると説明されていたので、最新の情報は知らないだろうとの意地悪からだった。

「その国は、1ヶ月前にまた権力者が替わりましてよ」

 逆に情報が古いと恥を掻かされて終わった。



 この時に、ルロローズはフローレスをおとし入れる事を決めた。



 ただ第二王子の婚約者の座を奪うだけでは気が済まない。

 フローレスには、万人の前で恥を掻かせてやる。

 結婚は、どこかの貧乏貴族か、現役を退いた年寄りしか申し込まないように。

 幸せな結婚など許さない。


 そんな時に発売されたのが、真実の愛を貫く王太子と侯爵令嬢が主人公の話だった。


 まるでベリルと自分達姉妹のようだと夢中になった。

 周りも同じように感じたのだろう。

 いつの間にか「素直で健気なルロローズヒロイン」と「意地悪なフローレス悪役令嬢」が出来上がっていた。



 勝手に盛り上がる周囲の様子を楽しんでいたが、そのうちに物足りなくなり、みずから動き出した。


 緑属性の適性まで見つかり、順風満帆だった。

 ちょっと適性は低いけど、訓練で何とかなるのは本で知っていた。

 今までも、本の通りにやれば、全てが上手くいっていた。

 そして、緑属性が得意のが教師となり、ベリルと共に自分に夢中になるはずだったのに。



が先生と恋仲に!?」

 では無く、悪役令嬢と恋仲になるなんておかしい。

 だって、全てに愛され可愛がられるのは自分でなくてはいけないのだから。


 だから、正しい道に修正する為に、先生が好きなのは自分だと周りに教えただけなのに。


「ルロローズは、第二王子妃俺の妻に相応しくないのでは無いかとの話が出ている」

 ベリルの言葉に、ルロローズは耳を疑った。

 学園内では、完全にルロローズがベリルの婚約者扱いだったからだ。


「何で?ベリル様が私を選んだのに?」

 ルロローズの問いに、ベリルは苦虫を噛み潰したような顔になる。

「俺の意思はほとんど考慮されないんだ。ローズはがローズを好きだと言っていただろう?それが問題になってるらしい」

「な、何で?」

「そこまでは判らない。このままでは、フローレスが選ばれてしまう」

 頭を抱えるベリルを、ルロローズは冷静にみつめていた。



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