第43話:二次元と三次元




 卒業式の打ち合わせをしたいからと、学園側から呼び出されたフローレスは、学園長室でいきなり学園長と担任に、土下座する勢いで謝られた。


「卒業式の答辞が第二王子殿下になりました」

 なるほどな、とフローレスは納得した。


 本来なら、学年首席が答辞を引き受けるのだ。

 卒業する2年首席と3年首席で話し合うのだが、大抵は2年生に決まる。

 何故なら、3年生の首席は大概2年生の時に送辞を引き受けているからだ。

 首席なのに3年生に進級しない生徒は滅多にいないので、花を持たせてくれるのが伝統だった。



「3年生の首席が納得しているのなら、私は別にかまいませんよ」

 フローレスは笑顔で告げてから、ある疑問を思い付いた。

 男性で3年生に進級しない生徒はほとんどいないからだ。


「あの、第二王子殿下も2年生で卒業なさるのですか?」

 フローレスの問いに学園長と担任は顔を見合わせてから、フローレスへと向き直った。


「自分は王族だから専門知識は要らないと……」


 確かに学園での勉強は、2年生までに基礎を全て習い、3年生からは専門分野に分かれる選択授業が増える。

 しかしだからといって、専門知識は要らないとの理由で学ばないのは無しだと思われた。

 そもそもなぜ、王族だと専門知識が要らないと結論づけたのだろうか。



「そんな考えだから、3位なんて順位に甘んじているのですわ!」

 思わず批難してしまってから、フローレスは慌てて口をふさぐ。

 いくらでも、下手をすれば不敬罪に問われてしまう。

 相手は腐っても王族である。


 しかし同じ考えだったのか、学園長も担任もとがめる事は無く、苦笑しただけだった。



 教室に戻ったフローレスは、いつもの三人の令嬢に囲まれる。

「答辞の打ち合わせでしたのかしら?」

「フローレス様なら3年生に進級しても良いと思いますけど、残念ですわ」

「卒業しても会ってくださいましね!」

 殺伐としていた気持ちが、癒やされたフローレスは微笑む。


「勿論ですわ。、連絡しますわね」

 フローレスの言葉の意味を理解している三人は頷く。

 それを見て、更にフローレスは笑みを深めた。




「それにしても、第二王子殿下が答辞ねえ……」

 学園から帰宅し、自室で引越しの準備をしながらフローレスは呟く。

 フローレスの知る第二王子ならば、答辞よりも開会の言葉とかをやりたがりそうだった。


「もしかして、婚約破棄の断罪劇をするつもりでは?」

 侍女の言葉に、フローレスは手を止める。

「いや、まさか……だって小説では卒業パーティーでよ?」

 そう。最近発売された最終巻では、【ホワイト】が【ベリアル王太子】に、卒業パーティーで断罪されたのだ。


「でも実際は、卒業パーティーで婚約者が発表されてしまいますから、その前にフローレス様を排除しないとではないですか?」

 侍女の更なる言葉に、フローレスは顔から血の気が引いていく。


「まさかこのままでは、ルロローズが選ばれない可能性が高いって事!?」

 フローレスの言葉に、侍女は頷く。

「学園内での噂や行動は、生徒達には好評でしたが、保護者から見ると王子妃に不適格となったのでしょうね」

 やはり物語と現実は違うようである。



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