第39話:噂と嘘と……




 学園内には、今、2つの噂が流れている。


 1つは、フローレスが緑の君と呼ばれるどこかの国の王子と不貞をしているというもの。

 もう1つは、ルロローズの緑属性の先生が、ルロローズに振られた事によりフローレスと付き合い、ルロローズと第二王子に復讐する機会をうかがっているというものだ。


「悪化してる!?」

 思わずフローレスの声が大きくなる。

「シーッ!」

 三人の令嬢が揃って口の前に人差し指を立てて注意してきた。

「何か可愛い」

 三人の令嬢を見て、フローレスがほっこりしていると、横の侍女も頷いた。


「危機感が薄いですわね、フローレス様は」

 ちょっと呆れ顔の侯爵令嬢は、大分馴れてきたのか、フローレスへの態度が親しい者に対するそれに近付いてきている。

 そろそろ名前で呼ぶ間柄になっても大丈夫かしら?と、フローレスはウキウキしている。


 因みに、三人の令嬢がフローレスを名前で呼ぶのは、オッペンハイマー侯爵令嬢だとフローレスもルロローズも当て嵌まるからだ。



「私の話を聞いております?」

 侯爵令嬢がフローレスを睨むが、それも友人同士の軽い遣り取りに感じられ、フローレスはやはりほっこりしてしまっていた。

「聞いてますよ、大丈夫です。問題は、酷い方の噂をルロローズが意図的に流しているという事ですわね。おそらく第二王子殿下も、その噂をあおっているのでしょう」

 フローレスの言葉に、侯爵令嬢達三人は目をしばたたかせる。


「帝国の第三皇子殿下との不貞の噂ですわよ!?フローレス様にも影響が……」

「許可を頂いておりますの」

「は?」

「内緒ですわよ」

 フローレスが蠱惑的こわくてきに笑った。



「予定通り、私の不貞を理由に第二王子殿下がルロローズを婚約者に選ぶとします」

 フローレスが指を1本立てる。

「予定通り?」

 伯爵令嬢が疑問を口にするが、もう一人の伯爵令嬢がその口を塞ぐ。


「ですが私とアダルベルト殿下は、噂と違い適切な距離を保った友人だと証明されます」

 フローレスは、2本目の指を立てる。

「名前呼び!?」

 同じ伯爵令嬢が驚いた声を出すが、口は塞がれたままなので「んがむむ」みたいになっている。


「そこで、第二王子殿下とルロローズが不貞の噂を流したのだと、皆にバレてしまいます」

 実際にルロローズは、フローレスとアダルベルトがさも付き合っているかのような話をしていた。

 3本目の指を立てたフローレスは、すぐに4本目も立てる。


「しかも私との不貞を疑っただけでなく、ルロローズに振られた腹いせに二人に復讐しようとしていたなどと、根も葉も無い噂でアダルベルト殿下をおとしめようとした事もバレます」

 フローレスは、4本の指を握り込んだ。


「なので、今の状況で立場が危ういのは、ルロローズと第二王子殿下です」

 フローレスの説明に、三人の常識ある令嬢は頷いた。




 ルロローズと第二王子は、フローレスをめて、婚約者候補から外そうとしているのであろう。

 そこまではフローレスの計画通りだった。


 更に二人は、アダルベルトに嫌がらせをしようと企んだのであろうが、とんだ悪手である。

 相手が悪過ぎる。


 第二王子は「帝国相手でも、所詮第三皇子」とか思っていそうである。

 その気持ちは、普段の態度にも出ていた。

 しかし、オルティス帝国では生まれ順はあまり関係無いのだ。


 帝位継承権第1位は、宝飾店で会った第二皇女。そしてアダルベルトは第2位である。


 そもそもが、オルティス帝国とペアラズール王国では国力が全然違うのだが、第二王子はそれ自体も理解出来ているのか怪しい。

 ルロローズは、絶対に理解出来ていないだろう。


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