第38話:広がる噂




「ちょっと!貴女が帝国皇子と不貞してるって噂になってますわよ!」

 声をひそめて報告してきたのは、侯爵令嬢だ。

「帝国の皇子だという事も、皆様に知られてしまってるのかしら?」

 フローレスが問い掛けると、令嬢三人は顔を見合わせた。


「いえ、ルロローズ様の先生、としか」

「それからもう一つ不名誉な噂が……」

「ねぇ?」

 戸惑った様子の三人は、貴女が言いなさいよ、いえ貴女が、などと変な譲り合いをしている。


 可愛いけど、話が進まないから程々でお願いしますね?と、フローレスに注意され、今回も侯爵令嬢が言う事に決まったようである。

 深呼吸をしてから、フローレスと目を合わせてきた。



「先生は、ルロローズ様に振られたから、フローレス様で我慢しているという噂です」

「他国の王子だから、他に知り合いが居ないからフローレス様で妥協だきょうしたとか」

「フローレス様から強引に迫っただけで、実は困っているなんてのもありました」


「何かおかしな方向へ噂が誘導されておりますわね」

 フローレスは頬に手を当て、困った表情をする。

「出来る限りですが、調べてみますわね」

 侯爵令嬢が両手で握り拳を作り、胸の前でグッと握る。

「無理はなさらないでくださいね」

 思わずフローレスは苦笑した。



 三人の令嬢には、公園でルロローズが緑属性の訓練をと共にしていた事を説明した。

 第二王子が付いて来て、を怒らせた事もついでに伝えておいた。

 何も教えないで、調べてもらうのは気が引けたからだ。


 アダルベルトとフローレスの恋の噂は本人の許可も取っているので問題無い。

 むしろやる気満々だったくらいだ。

 しかしどちらかといえば嫌っているルロローズとの噂であり、しかもアダルベルトの一方的な横恋慕では、絶対に許されないだろう。

「先生の名誉の為、横恋慕の噂だけは上手く否定してくださいね」

 フローレスは三人にお願いをした。




 その後、侯爵令嬢達三人が調べるまでもなく、犯人が判明した。

「私が先生に冷たくしてしまったから、お姉様の毒牙に掛かってしまったのかしら。責任を感じてしまいます」

 そんな事を吹聴しているルロローズに遭遇したからだ。


 あくまでも先生は「自分を好き」な事にしたいらしい。


「では、昨日の公園での第二王子殿下と先生が争っていたのは」

「訓練後に、どちらが私を送るか……で争ってましたの」

「まぁ!ルロローズ様は第二王子殿下の恋人ですのに!」

「あら、でも第二王子の婚約者は、ほら、ねぇ?」



 フローレスは溜め息を吐き出した。

 なぜ、あくまでも自分が愛されている事にしたいのかと、ルロローズの行動に呆れての溜め息だった。

 それを見た侯爵令嬢には、自分を貶めいているのが妹だと知って、ショックを受けているように見えたらしい。


「私、ルロローズ様も婚約者候補だと言って来ますわ!」

 正義感の強い侯爵令嬢には、ルロローズの行動が許せなかったようだ。

「いえ、それは王家の許可がないので駄目ですわ」

「そうですか?」

 フローレスに止められ、侯爵令嬢は残念そうにする。


「その代わり、先生の好みはだと言っても大丈夫ですよ」

 フローレスは悪戯っぽく笑った。



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