第37話:公園での出来事




 公園に着いたら、特に雑談もせずにすぐに授業が始まった。

 アダルベルトは馬車の中とは別人のように、冷たい雰囲気で淡々と授業を進める。

 フローレスは、ルロローズとアダルベルトを二人きりにしない為の要員なので、二人から付かず離れずの距離を保って側に居る。


 第二王子は、不機嫌さ丸出しでフローレスの横に居た。

 そんなに嫌なら、側に来ないで欲しい。

 フローレスはそう思いながらも、口には出さない。

 一応まだ、婚約者候補だからだ。


「では、この若木にしましょう」

 側にベンチが有るのを確認して、アダルベルトが足を止める。

「フローレス様。ここで暫く訓練しますので、こちらでお待ちください」

 胸元から大判のハンカチを出し、フワリとベンチへ敷く。

 フローレスを誘導し、ベンチへ座らせる。

 誰かさんと違って、完璧なエスコートであった。



 街中程では無いが、公園内にもそれなりに人がいた。

 公園内は暗黙のルールで貴族エリアと平民エリアが分かれているのだが、今居る場所は丁度どちらもほどよく居るエリアだった。


「いやぁ、面白いくらいこちらの思い通りですね」

 アダルベルトはフローレスの耳元で囁く。

 視線の先は、第二王子だ。

「彼だけがを知りませんからね」

 どちらにしてもルロローズは訓練だ。

 いつものようにニコニコと媚を売る事は出来ない。


 傍から見るとくらい、真剣に訓練するだろう。

 もしくは、そう見えるようにアダルベルトなら仕向ける事を予想できた。




 ルロローズは、周りの視線を気にしながら第二王子に近付いた。

 いつものように笑い掛けて来ないルロローズを、第二王子は心配する。

「そんなに辛い訓練なのか?」

 ルロローズは首を振る。

「命を操るのですから、真剣にやらないといけないんです」

 第二王子を見つめながら、ルロローズは言う。


「ローズ……」

 第二王子は感動しているが、フローレスの本の受け売り台詞である。

 そしてルロローズは態とらしく視線を下げ、「でも」と続ける。


「今日はいつもより厳しいかもしれません。学園で怒らせてしまったから」

 悲しそうに言うルロローズの肩を、第二王子は抱き寄せる。

「大丈夫だ。俺が守ってやる」

 とんでもなく勘違いというか、お門違いな事を言っているのだが、それを指摘する人間はいない。


「ありがとうございます、ベリル様」

 第二王子の腕の中。

 ルロローズはほくそ笑んだ。




「では、授業を再開しましょうか」

 フローレスが座るベンチの脇で、アダルベルトはルロローズを呼んだ。

「はい」

 ルロローズがアダルベルトの横に立つ。

 その更に横に、第二王子が立った。


「貴方は呼んでませんよ」

 アダルベルトが冷たく言う。

「見学くらい良いだろうが。俺が見てると何かまずいのか?」

 第二王子が言い返す。

「邪魔はしないでくださいね」



 声が聞こえない距離にいる人間には、二人か言い争っているように見えるかもしれない。

 明日には、歪曲わいきょくされた楽しい噂になっている事だろう。

 フローレスは緩む口元を隠すように下を向き、持って来た本を開いた。



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