第33話:定例のお茶会(再)




「何をニヤニヤしてるんだ、気持ち悪い」

 第二王子に言われ、フローレスは意識が浮上する。

「えぇ~?お姉様、笑うほど良い事あったの?男性に声でも掛けられた?でもそれは、私の姉だからだよ」

 ルロローズにも訳の解らない事を言われ、苛立ちが湧き上がる。


 今日は、例の定例のお茶会である。

 嫌々参加しているフローレスの為に、お茶はフローレスの好きなフレーバーティーで、お菓子もフローレスの好きなチーズのタルトやクッキー、ナッツのキャラメリゼなどが用意されている。


 使用人の気遣いが嬉しくて、クッキーを食べてからお茶を飲み、幸せな気分に浸っていたら、第二王子に「気持ち悪い」と言われたのだ。

 そしてルロローズの台詞は、学園でアダルベルトに声を掛けられた事を指しているのだろう。



「アダルベルト殿下の事を言っているのかしら?ルロローズ」

 フローレスは手に持っていたカップとソーサーを置いた。

「そ、そうよ!王子様は、私の教師だからお姉様に声を掛けたのよ!」

 とんだ暴論である。


「なんだ、その教師と言うのは」

 第二王子の機嫌が悪くなる。

 本当は「王子様」が気になったのだろうが、敢えて教師と聞いてきたのは自分の矜持の為だろう。

「私、緑属性の才能があるじゃないですか!あの宝飾店で会った王子様が、絶対に私に教えてあげたいって態々屋敷に訪ねて来てくれたんです」


 あれ?そんな話だったっけ?

 フローレスは、思わず中空を見つめてしまった。

 宝飾店で会った時には、アダルベルトはルロローズに緑属性が有るとは知らない設定だ。

 その場に居た第二王子には、さすかに嘘だとバレるだろう。


「あのいけ好かない帝国の男か!気に食わない態度を取ると思ったら、ローズを狙っていたのか!」

 なぜそうなる?

 フローレスは軽く目眩がして、額をそっと抑えた。




「ねぇ、アダルベルト殿下がルロローズに好意を持っているように見えた事ある?」

 お茶会の後、自室へ戻る廊下を歩きながら、フローレスは侍女に質問した。

 部屋に戻るまで待てなかったのである。

「いえ、どちらかといえば、嫌悪を滲ませておりますね」

「良かった。私の感覚がおかしいのじゃなくて」

 フローレスは胸を撫で下ろす。


 あの後ルロローズは、いかにアダルベルトが自分に優しいか、褒めてくれるのかを自慢気に語っていた。

 それを聞いた第二王子がいちいち「俺の方がローズに優しい」「俺の方がローズを解っている」と対抗するのである。


 フローレスはひたすらお菓子を食べ、お茶を飲んだ。

 頭の中は、どうやったら次回のお茶会に出なくて済むかを延々と考えていた。

 結論は「無理」だったのだが……。



 部屋に戻ったフローレスは、ドレスを着替え、リラックスした服装になる。

「現実の精神的苦痛は、小説の世界で晴らしてやるわ!」

 フローレスは机に向かい、ペンを握る。

「あら?でも小説の世界でも、お嬢様がやられる側ですよね?悪役令嬢ですもの」

 侍女の言葉に、フローレスは「ウッ」と言葉に詰まる。


「もう!やる気を削がないで!」

 文句を言うフローレスを見て、侍女は笑う。

「申し訳ありません。そのままではピンキーが悪者になりそうで」

 侍女に言われ、フローレスは肩をすくめた。



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