第34話:新作は、傾向を変えて




「確かに、二人の男を手玉に取る悪女にするところだったわ」

 侍女の指摘に、本来の小説の目的を思い出した。

 ルロローズの世評を上げる為に、世間を誤誘導する小説なのだ。


 二人の男性の好意の間で揺れるヒロイン。

 話としては面白いかもしれないが、それでは当初の予定とは変わってしまう。

 【ピンキー】は、一途で健気な少女なのである。

 【ホワイト】が、婚約者が居るにも拘わらず、他の男へ懸想しなければいけないのだ。


「他の男って、ピンキーの教師役しか男性キャラはいないし、アダルベルト殿下が協力してくれるから身分は公にしないままで、ホワイトの不貞相手にするしかないわよね」

 フローレスはペンを手に取った。

 原稿を書く前の草案を、サラサラと書いていく。

 別紙に相関図も書いていく。



 ベリアル王太子両想いピンキー

 ↑↓婚約者

 ホワイト両想い緑の君



 ここまで書いて、恥ずかしくなって紙を破いてしまった。

 けれど【ホワイト】と【緑の君】の関係を「不貞」と書くのも戸惑われ、相関図を書くのは諦めた。


「ルロローズ……じゃなくて、ピンキーが緑の君に片思いされてると勘違いしていて、ホワイトとの逢瀬を目撃して真実を知る、と。周りに「先生が私を好きみたい。どうしよう」とか相談していて、恥を掻くのも入れておかないとね」

 ウフフフと、フローレスは悪い顔で笑った。




 フローレスは、適切な距離を保ってアダルベルトに接した。

 絶対に二人きりにはならなかったし、あくまでも客人として扱っていた。

 呼び方が「アダルベルト殿下」に変わっていたが、それは友人としても有り得る事なので、後々問題になる程では無かった。


「アダル様ぁ」

 一度、ルロローズがそう呼んだ事があったが、アダルベルトは「変なあだ名で呼ばないでください」とピシャリと断っていた。

 ネタとして書きたい!と思ったフローレスだったが、それでは自分が作者だとバレそうなので、泣く泣く諦めた。



【ピンキーは、緑属性を教えてもらいながら、困っていた。なぜなら、先生からの好意をヒシヒシと感じるのだが、それに応える事が出来ないからだ。

「私はベリアル様以外の方の愛は受け取れないわ」

 ピンキーは仲の良い女生徒に、泣きながら相談した。

 相談された女生徒も「ピンキー様は可愛らしいから、惚れてしまったのね」等と同情していた。】



「新作、読みましたよ」

 アダルベルトが学園までルロローズとフローレスを迎えに来た。

 今日は環境を変えて、外で訓練してみようという事になったからだ。

 教室でイチャイチャして中々動こうとしないルロローズと第二王子を置いて、フローレスは先に馬車まで来ていた。


「すみません。ルロローズはまだ来そうもありませんわ」

 馬車の外で、馭者とフローレスの侍女も含め四人でルロローズを待つ。

 間違っても、変な噂が立たないようにだった。



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