第27話:忠告はしましたよ




「な、長かった……」

 アダルベルトを見送り、はしゃぐ両親を無視し、「王子妃教育に緑属性の訓練まで。私ってお姉様と違って才能があるから」と見下してくるルロローズを躱し、フローレスは自室のソファで脱力していた。


「お疲れ様です」

 侍女が甘めのロイヤルミルクティーを淹れてくれた。

「勉強はそれなりに出来るのに、常識が無く自分勝手だと馬鹿に見えるのねぇ」

 ロイヤルミルクティーを一口飲み、フローレスはしみじみと呟いた。




 翌日は、大騒ぎだった。

 なぜなら、ルロローズが「髪も瞳も緑の素敵な王子様が、私を気に入ってしまい、緑属性を教えてくれる事になったの」と、嘘八百を吹聴したからだ。

 まず朝の馬車の中で、第二王子にそれを告げた。

「一昨日のあの男か!」

 第二王子は頓珍漢な方向へ怒り出した。


「第二王子殿下。帝国の第三皇子殿下の事をあの男と言ってはいけません。どこで誰が聞いているか判りませんよ」

 フローレスは臣下として第二王子を諌めた。

「ルロローズもです。御本人の許可無く、帝国の第三皇子殿下の事を話してはいけません」

 今度はルロローズに当たり前の注意をした。


「嫉妬は醜いぞ!」

 第二王子がフローレスを怒鳴りつける。

 王子妃教育がなかったら、フローレスは「はぁ!?」と眉間に皺を寄せながら睨んでいただろう。

「お姉様、自分が相手にされなかったからって、みっともないわぁ」

 いやいやお前だろう!と、フローレスは盛大にツッコミを入れていたが、表情に出す事は無かった。



 教室、廊下、食堂。

 あらゆる所でルロローズが大声で話すものだから、その日の夕方には学園全体がルロローズの緑属性の教師の話を知っていた。


「まぁ、三角関係ね」

「二人の王子に愛されるルロローズ様、素敵ね」

「さすがだわ。優しくて可愛らしいもの。他国の王子様も惹かれてしまうのね」


 そしてなせか、第二王子と他国の王子がルロローズを取り合っているような話になっていた。



「フローレス様!噂は本当ですの?」

 例の侯爵令嬢と、二人の伯爵令嬢である。

 もう友達認定しても良いかしら?

 フローレスは三人の様子を、微笑みながら眺める。

 自分と親しいと迷惑を掛けるかも、と態と名前も呼ばずにいたのだが、ここまで心配して声を掛けて来るのだから、今更だろうとフローレスは思い直した。


「どの噂かしら?多過ぎて」

 いつもの調子でフローレスが返すと、令嬢達は珍しく声をひそめる。

「王子二人がルロローズ様に夢中と言う事と、新しい王子と出会う切っ掛けが、フローレス様ルロローズ様嫉妬が原因で突き飛ばして怪我させたからだと」


「しかも王子様が心配してお見舞いに来たのに、フローレス様が邪魔したとか」

「王子様とルロローズ様が仲が良いのを嫉妬して、適性も無いのに一緒に訓練するってのもありましたわ!」

 思った以上に酷い噂に、フローレスは頭を抱えたくなった。


「とりあえず、お三人方には1番重要な事を伝えますね。教師役は王子様とか軽い話ではありません。オルティス帝国第三皇子殿下です。この様な噂を流すだけでも不敬になります」

 フローレスの説明に、三人の顔色が一気に悪くなった。

 これが普通の反応なのである。



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