第26話:自慢の娘




 前もってフローレスは使用人達にお願いをしていた。

「もし、髪と瞳が翠の人が訪ねて来たら、その方は帝国の皇子殿下です。いつも以上に丁寧に接してください」と。

 その話を聞いた使用人達は、フローレスを訪ねて来るのだと察していた。


 しかし侯爵夫妻にルロローズを呼べと言われれば逆らえるわけもなく、ルロローズを呼びに行った。

 そして帝国の皇子本人にフローレスを呼ぶように言われ、即行動出来たのだ。



「本日は態々わざわざお越しくださり、誠にありがとうございます。オルティス帝国第三皇子殿下」

 深く礼をするフローレスを見て、侯爵夫妻は驚きに目を見開いた。

 帝国内のどこか小国の王子だと、ルロローズの話から予測していたからだ。

 しかし、フローレスが最上級の礼をしているのを見て、そして相手の名前を聞いて、自分達の認識が間違っていた事に気付いた。


よ、フローレス嬢」

 アダルベルトの言葉に、侯爵夫妻は顔を白くする。

 そう、青ではなく白だ。


「さすが王子様!優しいんですね!」

 ウフフ、とルロローズが笑う。

 本人は褒めたつもりだろうが、不敬この上ない態度である。

 第二王子のお気に入りの可愛い可愛い侯爵令嬢。

 それで全てが許されるのは、自国の中だけである。

 相手は格上の国の皇子。

 侯爵夫妻は、倒れないのが不思議な位の顔色だった。



「素直なお嬢様ですね」

 先程まで冷たい視線でルロローズを見ていたはずのアダルベルトは、その顔は優しい微笑みに変化していた。

 その目が笑っていない事に気付いているのは、フローレスだけである。

 両親などは心底安堵の表情になり、ルロローズを褒められて喜びすら浮かべている。


「そうなのです。明るくて、優しい子なので、緑属性の素質もあるんですのよ」

 母親は、ルロローズが自分の家系の属性を引き継いだ事を自慢した。

 兄はもっと適性ありますよ、とはさすがのフローレスも心の中だけに留める。



「そうですか、緑属性が」

 アダルベルトがフローレスをチラリと見た。

 やはり教授には属性の事はバレていて、この皇子にもそれが伝わっているようである。

「それならば、こちらの国にいる間は、私が緑属性を教えましょうか?」

 アダルベルトの提案に、フローレスは心の中でガッツポーズをする。

 いや、実際にちょっと膝の上で握り拳を作っていた。




 あれよあれよと話は進み、アダルベルトがルロローズの緑属性の教師をする事に決まった。

 しかし未婚の二人が、扉を開けておくにしても二人きりにはなれない為、必ずフローレスが同席する事になってしまった。

 元々はフローレスが画策した事なので、勿論拒否はしない。


 ルロローズは不満そうにしていたが、「第二王子殿下に誤解されたいの?」と言うフローレスの言葉に、渋々了承した。

 なぜ渋々なのか、フローレスには理解出来なかった。



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