第22話:出会いの宝飾店へ




 街に着いたオッペンハイマー侯爵家の馬車から、フローレスが降りて来る。

 続いてルロローズが、ニッコニコの笑顔で降りて来た。

 肝心の第二王子は、街中の宝飾店で待ち合わせをしている。


 第二王子はルロローズに似合うピンク色の宝石を頼んでいるとかで、先に出来を確認しているそうだ。

 伝言役の従者が、フローレスが一緒なのを見て、可哀想なくらい狼狽えていた。

 そもそも、当日に迎えに来ずに伝言ってサプライズにしても馬鹿なの?と、フローレスは呆れていた。

 しかも注文した品のネタバラシまで従者にさせている。



 その宝石を注文しているのを、これ見よがしにフローレスの前で従者に言っていたので、今回の計画が出来たのだが。

「可愛い宝石が似合うのはローズだけだからな。お前にはやるだけ無駄だろう」

 そんな事を言って、帰って行った。

 それが2ヶ月前である。


 その宝飾店で、例の教師と遭遇する予定だ。

 判り易い見た目だとかで、教授は詳しい容姿をフローレスに教えてくれなかった。

 子供じみた事が好きな方である。


【ベリアル王太子とピンキー、そしてホワイトの三人で街の宝石店へと入った。

 言い出したのはホワイトで、「婚約者に贈り物をしてくださいまし!」と、二人の了承も取らずに店に入ってしまったのだ。

 勝手に宝飾品を見て、自分に似合うのを鏡の前で合わせるホワイト。

 それを横目に、ベリアルはピンキーに似合う宝石を見つけ、その指に嵌めた。

 それを見たホワイトは、ピンキーの指に嵌められた指輪を、無理矢理奪い取ってしまう。

 ピンキーの指に、引っ掻き傷を付ける程の力で。】


 自分で書いておいて何だが、ルロローズに似合う宝石を欲しいとは思わない。

 それに、第二王子は趣味が悪い。

 今回の宝飾品も、折角の宝石が泣くようなデザインだろうと予想出来た。



「お姉様、あのお店ですわ!」

 ルロローズが一軒の宝飾店を指差し、嬉しそうに飛び跳ねた。

「ルロローズ、はしたない行動はおやめなさい。貴女は侯爵家令嬢なのですよ」

 フローレスは当たり前の事を注意したのだが、ルロローズは目に涙を溜める。

「ごめんなさい、お姉様!」

 両手を顎の辺りでグッと握り、脇を締めてプルプルと震えるルロローズは、必要以上に大きな声で謝っていた。


 フローレスは、震えているルロローズの横を通り過ぎ、宝飾店へと向かった。

 侍女はフローレスへ付いて行く。

 ルロローズへは、護衛を兼ねた第二王子の従者が付いていた。例の伝言役である。



「ホワイトがピンキーから力尽くで指輪を奪い取り、怪我をしたところを偶然居合わせた人が治癒魔法で治す……だったわよね」

 フローレスが侍女に小説の内容を確認する。

「はい。その通りですわ」

 侍女が頷く。


 宝飾店に向かう足取りは重い。

 ルロローズは小説の内容を変えないようにしているのか、フローレスの数歩後ろを歩いている。

 あくまでも、フローレスが率先して宝飾店に入るようにしたいのだ。


「全然欲しくなくて、羨ましくなくても、むしろゴミ同然だと感じても、奪わなくては駄目かしら?」

 フローレスが溜め息と共にそんな言葉を吐き出した。

「大丈夫じゃないですか?教授と同じで、その教師も小説を読んでいるんですよね?上手い事やってくれますよ」

 侍女が宝飾店の扉を開けた。



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