第21話:番外編を書こう!




 目指せ!治癒魔法。

 それが【ピンキー】の番外編の題名だ。

 初めて聞いた時に優秀な侍女が「ダサッ」と思わず呟いてしまった題名である。

 しかし、それくらい判り易い方が良いのである。

 これが『緑属性の正しい訓練方法』なんて名前だと、お堅い専門書のようで若い女性は手に取らないだろう。

 ルロローズは、間違い無く読まない。


 ルロローズだけを対象にするのならば『目指せ!王太子妃』などでも良いのだが、あくまでも緑属性の適性を伸ばす訓練なのである。



 教授に貰った発芽までの時間と、適性の度合いも目安として載せた。


 しかし困った事に、【ピンキー】が主人公な話なのだが、彼女が訓練をしても大して伸びないのだ。

 あまり緑属性の適性があり治癒魔法まで出来るように書いてしまうと、ルロローズとの差が有りすぎてしまうのだ。


 いくらフィクションだとはいえ、それはちょっといただけない。


「あぁ〜〜〜!もっと頑張りなさいよ!」

 原稿用紙を前に、フローレスは頭を抱えた。



「それでは、とても良い教師を紹介しましょう」

 番外編発行に際し、監修として名前を入れる事の確認をしに来たフローレスに、教授に驚く提案をされた。

「教師……ですか?」

 フローレスと、一緒に来ていた伯爵夫人は顔を見合わせる。


「大丈夫ですよ。口は硬いですし、そもそもこの国の人間では無いですからね」

 教授の視線がフローレスを見る。

「それになりより、のファンですよ」

 フローレスは首を傾げる。

「小説のファンではなく?」

 教授は微笑む。

「はい。小説の作者のファンです」

 番外編の執筆で疲れていたフローレスは、まぁ良いか、で教授の話を流してしまった。




【街中をピンキーとホワイトで歩いていた。実は、ホワイトが「婚約者をないがしろにしている」と王家に苦情を入れたのだ。

 本日は、ベリアル王太子とピンキーのデートに、ホワイトが付いて来た。

 王陛下と王妃陛下に注意されたばかりのベリアル王太子は、断る事が出来なかった。】


「お姉様、一緒に街にお買い物に行きませんか?」

 ルロローズがフローレスを買い物に誘ってきた。

「私はいいわ。第二王子と一緒に行ってらっしゃい」

 フローレスは、ルロローズの誘いを断る。

 誘いに来る事は解っていた。ここですんなり承諾してしまうとフローレスらしくない。

 それに、実際に行きたくなかった。


「でも、お姉様が、いつも私ばかりベリル様と出掛けて申し訳無いわ」

 ルロローズの言葉に、フローレスは態とらしく首を傾げる。

「私が婚約者だったのは昔の事。今は貴女と私で婚約者でしょう?今更何を言っているの?」

 フローレスの咎めるような口調に、ルロローズは「あっ」と顔を歪めた。


 ちょっと小説に毒され過ぎね。

 フローレスは心配になってしまった。

 周りはいくら影響されても良いのである。

 所詮は他人事だ。

 しかしルロローズは違う。

 今日は例の教師と遭遇する予定なのだが、変更しようか本気で悩んでしまった。



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