第16話:フィクションだから




【ホワイトは、食堂へ向かう廊下で、前を歩くピンキーに気が付いた。

 今日もフワフワのピンクの髪が揺れている。明るく可愛いピンキーを象徴する髪。

 ホワイトは、ピンキーを後ろから力一杯突き飛ばした。

「邪魔なのよ。もっと端を歩きなさい」

 瞳を潤ませて見上げてくるピンキーに、ホワイトは冷たく言い放った。】


「まさか、これを現実と混同する人が居るとは、さすがに予想外だったわ」

 ルロローズが足首に包帯を巻いていただけで、フローレスに後ろから突き飛ばされたのかと質問した令嬢がいた事実に、フローレスは驚いた。

 そもそも本の方が先に発売されているのである。


 しかしこの小さな出来事が、フローレスの自信に繋がった。

 多少無理がある設定でも、読者が勝手に脳内補完してくれるのである。

「王子妃に相応しいのは、やはりルロローズヒロインじゃないとね!」

 まっさらな原稿用紙を前に、フローレスはペンを握りしめた。



「フィクションだから、多少の無理もゴリ押ししますよ!」

 伯爵夫人との打ち合わせでそう宣言したフローレスが書いたエピソードは、試験に関するものだった。

 王子妃教育を手抜きした【ホワイト】は、あまり勉学が得意では無い設定になっている。

 逆にフローレスは短縮出来るほど優秀だった。

 その差を埋めるには、やはり【不正】しかない。


 しかし、学園の教師を懐柔した、とか、テスト問題の漏洩など、実際の学園に迷惑が掛かる方法では駄目なのである。

 そこでフローレスが考えたのは、替え玉作戦である。

 本の中の悪役令嬢には、簡単な替え玉不正を行ってもらう事にした。




 現実世界でも、年度末試験が行われた。

 1学年最後の試験であり、1年間の集大成である。

 フローレスはほぼ満点で、1位であった。

 2位は僅差で、王太子の側近候補の公爵家子息。

 大分点差が開いて第二王子が3位、ルロローズは8位だった。


「あら、三人娘って頭が良かったのね」

 張り出された順位表を眺めながらフローレスが呟く。

 三人娘とは、例の三人の令嬢の事である。

 三人は仲良く5位6位7位だった。

 一緒に勉強していたのだろう。

 本当に仲の良い事である。


 仲が良いと言えば、第二王子とルロローズは、順調に仲を深めていた。

 街にデートに行き、仲良くカフェに居る姿も目撃されている。

 王子妃教育の成人分の始まりが延びた分、ルロローズにも余裕が出来たようだ。フローレスの予想以上に、街に遊びに行っている。

「だから8位なんて成績を取るのよね」

 ちょっとだけ不安になったフローレスだが、王子妃になる自覚と覚悟はルロローズにもあるはずだからと、思い直した。



 学年が上がる前の長期休暇中に、新しい小説が出版された。

 例の試験に関する事件が載っている巻である。


【ホワイトは、妹のピンキーにとんでもない命令をしていた。

 ピンキーの答案用紙に、ホワイトの名前を書くようにと言うのである。

 最初は断っていたピンキーだが、ホワイトの「私の成績が悪いと恥をかくのは公爵家と、婚約者のベリアル王太子殿下なのよ!」と言う台詞に、渋々ながらも了承してしまっていた。

 ピンキーは見事に1位を取った。

 しかしその栄光は、ホワイトのものになってしまったのである】



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