第98話 最後のトラブル
千紗乃の要望通りわたあめを購入してから、僕たちは賑わう校内を歩いていた。
昔はこうやって誰かと文化祭を回れるなんて想像もしてなかったな。
しかもそれがS級美少女の千紗乃なのだから驚きだ。
しかし、そう現実は甘くない。
喧嘩をしている最中の僕たちの会話は文化祭の雰囲気にあてられて賑わうどころか、僕から話しかけても「うん」とか「へぇ」という一言しか返答がない状態だ。
こりゃどうしたもんか……。
「ねぇ、灯織君のせいで目立つんだけど」
ようやく千紗乃から喋りかけてきたと思えば普段よりも語気が強い。
というか、僕のせいで目立つとはどういうことだろうか。
僕には千紗乃のように華は無いし、僕のせいで目立っているとは到底考えられない。
「僕のせい?」
「そう。灯織君のせい」
「千紗乃が可愛いから注目されてるだけじゃないか?」
「--っ。そういうことじゃないわよ。私たちが付き合ってるって話はもうみんな知ってるでしょ? でも学校で2人きりになることってほとんどないし、実際2人で文化祭回ってたら注目されるわよねって話」
千紗乃と仲直りをすることに必死で考えていなかったが、僕たちが2人でいれば注目を浴びてしまうのは当然のことだ。
良い意味で目立っているのではなく、どちらかといえば悪目立ちをしている方ではあるとは思うが。
まあ今はそれにプラスして僕たちの仲が険悪そうに見えていることが普段より注目を浴びている要因なのだろう。
「ああ、そういうことか」
「……灯織君」
「どうした?」
「あ、あの……」
何か僕に言いたいことがあるような様子を見せている千紗乃だが、よほど言いづらいことなのか言葉に詰まっている千紗乃はそれから2、3分の間黙り込んでしまった。
え、まさかもう本当に今僕たちが住んでいる家を出て実家で暮らしますとか⁉︎
それくらいの話じゃないと、これ程までに言葉を詰まらせることはないのではないだろうか。
もちろん僕はそんなこと望んでいないが、千紗乃がそう言うのであれば迷惑にもなるし拒否することはできない。
しかし、千紗乃の表情を見るとなぜか顔を紅潮させている。
千紗乃は僕に何を伝えようとしているんだ?
ああ、この無言の時間にこれ以上耐えられる気がしない。
僕から何か喋りかけるべきなのだろうか。
「私が悪いのに不機嫌になって本当にごめ--」
「本庄君‼︎」
黙り込んでいた千紗乃がようやく喋り出した瞬間、僕たちの前に現れたのは藤田さんだ。
息を切らした様子で膝に手をついている。
「あ、ああ藤田さん。何やってるの?」
「本庄君を探してたんです‼︎」
僕を探すのに走り回って息を切らしているのか。
そこまでして僕になんの用事があるのだろう。
「僕を?」
「はい‼︎ ちょっと校舎裏まで来てくれませんか?」
「え、校舎裏? い、今はちょっと……」
「行ってこればいいじゃない」
僕が藤田さんからの誘いを断ろうとすると、千紗乃は語気を強めてそう言った。
千紗乃がようやく喋り出したこのタイミングでこの場を離れるのは流石にまずい。
ただでさえ険悪な状態が更に悪化してしまうだろう。
「あ、いや、でもまだ話の途中--」
「いいから。私ももう戻るわね」
藤田さんからの誘いを断ってこの場に残ろうとしているのに、千紗乃はもう戻ると言って振り返り歩き出してしまった。
「え、ちょ、千紗乃⁉︎」
僕が千紗乃を追いかけようとすると、藤田さんに手を握られ、校舎裏の方面へと引っ張られる。
「藤田さん⁉︎」
藤田さんは何も言わないまま、僕の手を握り突き進んで行った。
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