第97話 文化祭
今日は文化祭当日。
僕なりに千紗乃との関係を修復するため、積極的に話しかけたり、干渉してほしくなさそうな場面では干渉しないようにしたりと努力したのだが、結局関係が修復されることはないまま文化祭当日を迎えてしまった。
千紗乃のメイド服を可愛いと褒めた日、間違いなく僕たちの関係は修復に向かっていた。
しかし、千紗乃の方には未だ遺恨が残ってしまっているようで、関係が修復に向かうことはなかった。
そして今日、文化祭当日だというのに僕と千紗乃は一言も会話を交わすことのないまま登校してきてしまった。
そして文化祭が始まり、裏方としてメイド喫茶で出すためのコーヒーや紅茶等を準備している。
文化祭という高校生活におけるビッグイベントを千紗乃と喧嘩したまま過ごすわけにはいかない。
そう思っている僕は仕事をしながら千紗乃に声をかけられる機会を伺っていた。
しかし、裏方として働いている僕と表に出て接客をしている千砂乃が関わる機会は中々訪れず、どうしようかと頭を悩ませていた。
「その様子だと、まだ仲直りしてないのか?」
「……ああ。まだできてない」
「かなり長引いてるな」
「長引かせないように歩み寄ったつもりだったんだけどな……」
僕としては早く千紗乃との関係を修復させて、以前のような生活に戻りたい。
……いや、本当は戻るだけではなく、その先に進みたいと思っている。
「そもそも何で千紗乃ちゃんが怒ってるのか、理由は分かってるのか?」
「そ、それは……」
千紗乃が怒ってしまった理由は分かっていない。
露出の多い格好で誘惑をするのはやめろと注意をしてから機嫌が悪いのは分かっているが、なぜこれほどまでに機嫌を損ねてしまったのかは分かっていない。
「まずはその理由を聞いてからじゃないのか? 理由も分からないのに仲直りなんて無理だろ」
「……うん、そうだな」
「まっ、『なんで怒ってるんだ?』って尋ねたら『そんなことも分からないの?』って言われたりするんだけどな』
「お前は僕を勇気付けたいのか揶揄ってるだけなのかどっちなんだよ」
「ごめんごめん。早く神凪と仲直りしてほしいと思ってるよ」
「……はぁ。とりあえず、文化祭一緒に回ろうぜって誘ってみる」
「頑張れよ」
どのようにして千紗乃を誘うか、それだけを考えながら仕事をしていたため、僕は5杯くらいのドリンクを無駄にした。
仕事をしながらどうやって千紗乃に声をかけるか悩みに悩んだが、結局いい案は思い付かなかった。
しかし、このまま声をかけずに終わらせてはいけないと休憩時間に入った僕はとりあえず千砂乃に声をかけることにした。
「千紗乃っ」
「……どうかした?」
相変わらず目を細めて僕の方を見つめてくる千紗乃に怖気付きそうになりながらも、話を続けた。
「文化祭、一緒に回らないか?」
「……」
千紗乃は回答に悩んでいるのか、僕の方を見つめたまま口を閉じている。
「……わたあめ」
「--へ?」
「さっきわたあめ売ってるクラスがあったから。それ買ってくれるなら一緒に回ってあげる」
そ、それはわたあめという報酬を貰わないとやってられないくらい僕と一緒に文化祭を回りたくないということか⁉︎
いや、むしろその逆で、一緒に回ろうと僕から誘われたものの、喧嘩をしている最中なので素直に『はい』とは言えなかっただけなのか?
「……か、買う! わたあめくらいいくらでも買うから!」
「一つでいいわよ太るし」
真相は分からないが、僕は無事千紗乃と一緒に文化祭を回ることになった。
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