第99話 改めて

 無言で僕を校舎裏へと引っ張っていく藤田さんに抗う術はなく、そのまま校舎裏まで連れてこられてしまった。


 何の用があるのかは知らないが、今はどんな用事よりも千紗乃と仲直りすることが最優先。


 そう分かっているはずなのに、藤田さんから感じる覚悟のようなもののせいで僕はこの場を離れることができないでいた。


「藤田さん、今他にもならないといけないことがあるから用事があるなら後にしてほしいんだけ……」

「本庄君‼︎」

「は、はい、なんでしょう」

「勝ち目がないのは分かってます」

「え、勝ち目?」

「それでも、やっぱり気持ちを伝えずにはいられないから」

「--っ」


 藤田さんが何のために僕を校舎裏まで連れてきたのか、そして今から僕に何を伝えようとしているのかを理解してしまい僕は藤田さんから目を逸らした。


 僕が初めて藤田さんと会話をした時から僕のことを好きでいてくれて、今日までその気持ちをなくすことなく一緒にいてくれた藤田さん。


 そんな藤田さんに、いつかは僕の気持ちを伝えなければならないのだろうとは思いながらも、藤田さんの優しさに甘えて今日まで気持ちを伝えることなく先延ばしにしてきてしまった。


 僕がもっと早く自分の気持ちに気が付いて、藤田さんにそれを伝える勇気があれば、藤田さんの心の傷も最小限で済んだかもしれないのに。


「好きです。私、本庄君のことが好きです!」


 面と向かってこうして好きと言われたのは、藤田さんが初めて。


 千紗乃とは仲を深め同棲までしているが、恋愛対象として好きだと言われたことは一度もない。


 もちろん友達として、嘘の恋人として、家族としての好意は抱いてくれているのだろうが。


「……」


 藤田さんに気持ちを伝えるのだと決心したのにも関わらず、僕は黙り込んでしまう。


 そう、僕は分かってしまったのだ。


 好かれる側の気持ちが。


 そしてそれを、断る側の気持ちが。


 まさか自分が好かれる側の気持ちを理解することになる日が来るだなんて思ってもみなかったけど。


「ごめん。藤田さん」

「……はい」


 僕は藤田さんの告白を僕は断った。


 藤田さんの気持ちに応えることはできない。

 僕には千紗乃という恋人(嘘)がいるのだから。


 結局僕は藤田さんに何もしてあげられていない。 


 それなのに、僕は藤田さんに勇気をもらった。


 気持ちを伝えてくれた藤田さんのためにも、僕は自分の気持ちに決着をつけなければならない。


「僕にさ、恋人がいるのは知ってるだろ?」

「はい。もちろんです」

「今喧嘩中でさ。仲直りしないといけないんだ。だからもう千紗乃のところに行くよ」

「ありがとうございます。ちゃんと気持ちを伝えてくれて」


 こんな状況で「ありがとう」とお礼を言える藤田さんは本当にいい子なのだろう。


 それこそ僕には勿体無いくらいの。


 それでももう、僕の気持ちが変わることはない。


「こちらこそありがとう。好きになってくれたのは嬉しいし、勇気をもらったよ」

「そう言ってもらえただけでも、報われた気がします。早く行ってあげてください」

「本当にありがとう」


 そう言って、僕は藤田さんに背を向けて走り出した。

 

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