第96話 帰宅後の会話
藤田さんがメイド服で突っ込んで来た時はどうなることかと思ったが、千紗乃との関係が大幅に悪化することはなくその場は乗り切ることができた。
しかし、今日の出来事をこのままにしておくわけにはいかないと、帰就寝前にリビングのソファーに座っている千紗乃へ思い切って声をかけた。
「そ、その……。良かったのか?」
「……良かったって何がよ」
あぁっ。最初の間が怖いっ。怖すぎますよ千紗乃さんっ……。
「ぼ、僕が藤田さんのメイド服姿を可愛いって言ったことだよ」
自意識過剰と言われても仕方がないかもしれないが、千紗乃は僕に対してある程度特別な感情を抱いていると思う。
それが恋心ではないにしろ、家族のような何かしら特別な感情を抱いているはず。
だとすれば、僕が千紗乃意外の女子を千紗乃の目の前で褒めるのは気持ちのいいことではないだろう。
しかも、千紗乃は今まさに僕に対して負の感情を持っている。
そんな千紗乃の機嫌が余計に悪くなることはやぶさかではない。
「別になんとも思わないわよ。実際問題藤田さん可愛いし、アレだけ可愛いって言われることを期待してる子に可愛いって思ってるのに可愛いって言ってあげないのは可哀想でしょ」
「そ、そりゃそうだけど……」
予想以上に冷静な言葉を返して来たので安堵すると同時に、冷静すぎることに恐怖も覚えていた。
「私がメイド服着る時は別にお世辞で可愛いなんて言ってくれなくていいから」
僕に対して怒っているからこそ出る突き放すような言葉に、躊躇しながらも言葉を返した。
「なっ、そ、そりゃ本当に可愛かったら……」
「大体メイド服なんて着たくないのよ。みんな文化祭だからとか言ってスカートの丈短くしようとかどうとか言っちゃってるけど、丈の短いスカートなんて着たくないし。着たくもないメイド服を着て可愛いなんて言われたって嬉しくないわよ」
そ、そんな話になってるのか……。
翔太としか深い関わりがないので、クラスメイトの中でそんな話になっていることは知らなかった。
千紗乃が丈の短いスカートを着たくないのはただ単に露出度の高い服を着たくないからというわけではなく、これまで男子から受けて来た視線も関係しているのだろう。
この学校でNo.1のS級美少女と言われ、これまで数多くの男性から告白を受けているのだから、どれだけの視線を集めてきたかは分からない。
その視線の中にはいい視線ばかりではなく、下心が含まれた視線もあっただろう。
そんな辛い経験をしてきた千紗乃だからこそ、丈の短いメイド服を着たくないのだ。
「で、でも……。僕は楽しみにしてる」
「……ふんっ。もう寝るから」
そう言って千紗乃は僕の方を見ることなく、そのまま自分の部屋へと戻っていってしまった。
ある程度千紗乃と会話はできるようになってきたものの、やはりまだ僕に対しての怒りが消え去っているわけではないらしい。
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