第90話 王様ゲームの終焉
千紗乃は焦った様子で藤田さんをがっしりと捕まえ僕から引きはがした。
「おや、おやおやぁ? これは見過ごせませんねぇ。王様の言うことは絶対だけど?」
瀬川さんはここまで見透かしていた様子で千紗乃を煽っている。
「そ、それはそうだけどっ……。流石にこれはやりすぎでしょ‼︎」
「やりすぎるのが王様ゲームの醍醐味だと思うんだけどな〜」
「だからって流石にゆ、指を舐めるなんて……」
千紗乃の言っていることは明らかに正しく何も間違っていない。
普通に考えて特殊なプレイでもない限り、女子高生が同級生男子の指を舐めるだなんてあり得てはいけない。
しかし、これは王様ゲーム。
一度王様ゲームを開始することを認めてしまったからには、何の代償も無しに今更命令に背くことはできないのである。
「キスとかに比べたらマシでしょ?」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
瀬川さんは藤田さんの親友で、親友の藤田さんが好きな相手である僕との関係を深めるために指を舐めるという命令をしてきたのだろう。
その命令が僕と藤田さんに当たるとは限らないが、瀬川さんなら何かしらイカサマをして誰に何番が当たるかを調整していたとしても……。
いや、疑いすぎるのは良くないな。
僕と藤田さんの中を深めるための命令なのは間違いないだろうが、僕と藤田さんの番号を言い当てたのは単なる偶然だと思うことにしよう。というかそう思いたい。
とにかく、僕と藤田さんの仲を深めさせるという目的がある限り、瀬川さんがこの命令を取り消すことはないだろう。
「じゃあ問題ないね」
「そ、そういうわけでは……」
「あ、あの‼︎」
千紗乃と瀬川さんが言い争っているのを見ていた藤田さんが会話の中に割って入った。
「憂、どした?」
「いくら王様ゲームと言ってもこの命令は流石にやりすぎてますよね。私も命令は絶対だと思って頭がおかしくなってましたけど、冷静になって考えたらこんな命令従えるはずないです」
千紗乃が引き留めたことで時間ができたおかげで、藤田さんは冷静になれたようだ。
「それでいいの?」
「うん。これでいいの。私、自分のことで精一杯だったけど、神凪さんのこと考えたら流石に申し訳ないなとも思ったし」
「え、私?」
千紗乃は『なんで私?』と疑問符を浮かべている。
「私も本庄君が神凪さんに指舐められてたら嫌だなと思って」
「え、そ、それはどういう?」
千紗乃は焦っているのか藤田さんの発言の意味に気付いていないようだったが、それに気付いてしまった僕の顔は一気に熱くなる。
「ははっ。藤田さんってフワフワしてるように見えてしっかりしてるんだね」
「だね」
「え、何? どういうこと?」
翔太と雨森さんもその発言の意味に気付いているが、千紗乃だけ理解ができていない。
焦っているのも理解できるが、これくらいはすぐに理解してほしいものである。
いつまでもわけが分からずあたふたとしている千紗乃を見かねた瀬川さんが千紗乃に耳打ちした。
「--っ⁉︎ なっ、べ、別にっ……」
それから千紗乃は僕と同じように耳の先まで顔を赤くし、それ以上言葉を発することはなかった。
とにもかくにも、千紗乃が藤田さんを引き剥がしてくれたおかげで指を舐められることなく無事に王様ゲームを終えることができた。
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