第75話 嘘の恋人関係(改)
千紗乃に手を握られて連れてこられたのは人気のない校舎裏。
わざわざ教室を離れてまで千紗乃が僕に何を言うつもりなのかくらいは流石の僕でも分かる。
「何言ってるの⁉︎ 私たちこの間別れたばっかりよね⁉︎」
夏休みに行った旅行先で僕たちは嘘の恋人関係を終わらせて友達に戻ったのだ。
それなのに、また嘘の恋人になるとなれば誰だって黙っちゃいない。
「まだ別れて間もないな。まあ元から付き合ってなかったんだけど」
「それが分かってるならなんであんな嘘ついたのよ‼︎」
僕だって考え無しに付き合っているなんて嘘をついたわけではない。
あの状況でできるだけ冷静になって頭を回転させた結果、付き合っていると嘘をついたのだ。
「元から付き合ってなかった、って嘘をつくのは僕たちが二人でいるところを見られてる時点で無理があるってのは分かるよな?」
「それくらいは私も馬鹿じゃないし分かるわよ」
「じゃあ他の理由を考えるってなった時に、僕が千紗乃に振られたって言ったとしたらどうなると思う?」
「……? 別にどうにもならないんじゃない?」
千紗乃には分からないのだろうが、陰キャで空気を読むことに長けている僕にはどのような結末を迎えるのかが手に取るように分かる。
「甘いな。僕が千紗乃に振られたってなったら千紗乃のことをよく思っていない人間が『本庄君が可哀想だ』なんて言いがかりをつけてくる可能性がある」
「え、そんなことになるかしら」
「なるな。俺の経験だと十中八九そうなる」
「私はそうは思えないけど……」
「逆に僕が千紗乃を振ったとなっても『本庄君レベルに振られる神凪マジ雑魚』みたいな悪口が広まるからな。それならいっそ付き合ってるって言った方がいいと思って」
「……まあ確かにそうなのかも?」
千紗乃は疑問符を浮かべている。
「だろ。まあ何にせよ付き合ってるって話が広まるタイミングが悪過ぎたな」
「そうね。でも本当によかったの? また嘘の恋人って曖昧な関係になっても」
そう訊かれて、僕は屁理屈になると思いながらも返答した。
「前は友達じゃない状態から嘘の恋人だろ? 今回は友達から嘘の恋人だから、確かな関係はあるってことなんじゃないか?」
「……ふふっ。何それ。屁理屈でしかないじゃない」
「屁理屈で結構」
「それで、これからどうするつもりなの?」
これからどうするつもりかと訊かれても今のところ考えなんてない。
まずは僕たちの噂が治るのを待つしかないだろう。
「とりあえずはこのまま生活を続けて、僕たちの関係について熱りが冷めるまで待つしかないんじゃないか?」
「そうね。できるだけ学校ではあまり会話しないようにした方が--」
「それは大丈夫だ」
「え? 大丈夫?」
僕は千紗乃の言葉を遮り言葉を被せた。
「ああ。もう付き合っていることは間違いなく全校生徒に広まるだろうし、逆に会話がないと変に怪しまれるだろ?」
「それはそうかもだけど……」
「と、とにかくだ。付き合っているってことになったからには逆にもう学校では普通に話せるだろ?」
「ま、まあ確かに……?」
「だろ。だからいいんだよ。普通に喋れば」
「あの……勘違いだったら悪いんだけどもしかして灯織君、私と学校で喋れなくなるのが寂しいんじゃ……」
「そ、そんなわけないだろ⁉︎」
千紗乃からの指摘は完全に図星だった。
僕は千紗乃と学校で話せなくなるのが嫌で、そうなるのを阻止しようとしたのだ。
「ふふっ、ふふふっ。えへへへーそっかーそういうことかーもう可愛いな〜灯織君は」
「やめろ‼︎ 頭を撫でようとするな⁉︎」
僕が千紗乃と学校で喋りたいと思っていることがバレた瞬間にダル絡みをしてくる千紗乃がウザかったが、正直可愛くもあったのでそこまで強くは拒否しなかった。
何はともあれ僕たちは若干の友達期間を経て、再び嘘の恋人となったのだ。
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