第74話 周囲の評価

 田中さんから『千紗乃ちゃんと付き合ってるの?』と訊かれた僕が『付き合ってる』と発言した瞬間、教室内が一気に騒がしくなる。



 --なんであんな地味な奴が神凪と⁉︎


 --あいつが付き合えるなら俺も付き合えたんじゃね⁉︎


 --神凪さん、弱みでも握られてるのかな。


 --うらやまなんだがぁ



 うん。嫌になるほど僕に対する批判の言葉しか聞こえてこないな。


 てか僕、女子の弱みを握って無理やり付き合わせるような男に見られてるのか?

 これまで頑張ってできるだけ無害な存在になろうって意識してきたつもりなんだが。


 女子生徒から嫌われてるという神凪に対する批判が一つくらいあっても良さそうなもんなのに、全てが僕に対する批判。


 まあ聞こえてくるのは男子生徒からの妬み嫉みなので、そのせいで千紗乃に対する批判は聞こえてこないのだろう。


「やっぱり本当なんだ‼︎ え〜本当におめでとう‼︎ 私まで嬉しくなっちゃうな〜」

「え? 嬉しくなる?」


 僕は田中さんの反応に疑問を抱いた。

 千紗乃は女子生徒から嫌われていたのではないのか?


「そりゃ嬉しくもなるよ〜。私、千紗乃ちゃん可愛くて大好きだから」


 いや、うん、千紗乃のことが好きな女子生徒がいてくれるっていう非常な喜ばしいことではあるんだけどね? その言い方だと僕のことは全く興味が無いってことになるんですが……。


 いや、自分のことを悲しむよりもまずは雨森さん以外に千紗乃のことを好きでいてくれている女子生徒がいたことを素直に喜ぼう。


 それにしても、なぜ田中さんは千紗乃のことを嫌っていないどころか可愛いと言ったり大好きと言ったりしているのだろう。


「千紗乃のこと、嫌いじゃないのか?」

「嫌いだなんてそんな人いないよ。みんな美人すぎて話しかけづらいからって話しかけてないだけで、みんな大好きだよ?」


 以前千砂乃から聞いた過去の話は千紗乃の思い込みによる部分も含まれていたようだ。


 千紗乃に妬みを抱えている女子生徒が一定数いるのは事実なのだろうが、女子生徒の中にも千紗乃のことが好きな人は大勢いるらしい。


「そうか。ならよかった」

「本庄君もおめでとうっ‼︎ 私は本庄君と千紗乃ちゃん、バランスが取れててすっごくいいと思うなぁ」


 悪意はないのだろうが、可愛すぎる千紗乃と地味で根暗で大して顔の良くない僕が付き合うから丁度バランスが取れているという意味に聞こえてしまうなその発言。


 ……いや、そんな卑屈なことばかり言っていないでそろそろ自分に自信を持つべきなのかもしれないな。


 自信がありすぎるのもまた問題ではあるが、自信が無さすぎるのも僕のことを大切に思ってくれている千紗乃に失礼になる。


「ちょっと灯織君、こっちきて」


 僕がした発言の真意を確認するためなのだろうが、千紗乃は自分の席を立ち両親に嘘の恋人関係を説明した時と同じくらい、いや、それ以上に顔を紅潮させながら僕の手を握り、教室から連れ出された。

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