第66話 作戦成功
僕は千紗乃に差し出されたスプーンを躊躇することなく口の中へと運んだ。
ここで躊躇をしてしまうと怪しまれる可能性が高いからだ。
「あらあら、仲が良くてお母さん嬉しいわ」
これだけで本当に母さんが僕と千紗乃の関係に対する疑いを晴らしてくれるかどうかは定かではなかったが、少なくとも僕と千紗乃の仲がいいという印象は持ってくれたようだ。
「ちょ、ちょっとやめてよお姉ちゃん。お兄ちゃんのことが好きなのは分かるけどみんなの前だよ?」
「そ、それもそうね……」
百華ちゃんから『あーん』をやめるように言われたおかげで、それ以降千紗乃が僕に『あーん』をする必要はなくなった。
それにしてもどういうことだ?
百華ちゃんは僕たちが本当のカップルではないことを知っている。
それなら、『お兄ちゃんのことが好きなのは分かるけど』なんてセリフは言わなくてもいいはずだ。
それとも母さんに僕たちの関係を信じ込ませるための作戦を遂行中だったことを理解した上であえて嘘をついてくれたのか?
だとしたら有能すぎるなこの子。
とはいえ、千紗乃に『あーん』するのをやめろって言いながら百華ちゃんが僕のことを『お兄ちゃん』ってみんなの前で呼ぶのはどうかと思いますよ?
それ下手したら僕が無理やり言わせてるように捉えられる可能性だってあるからね?
何はともあれ百華ちゃんが千紗乃を止めてくれたおかげで、それ以降僕たちは変に気を遣うことなく優雅に夕飯を食すことができた。
ご飯を食べ終えた僕たちは部屋へと戻ってきた。
「あれでお義母さんを騙せたかしら」
「どうだろうな。ニコニコしながら嬉しそうにしてたから疑ってはなさそうだけど、百パーセント信じたかと言われるとそうではなさそうだな」
「少しでも疑いが晴れたならヨシって感じね」
今回だけで完全に信じ込ませられるとは僕も思っていなかったので、千紗乃が言うように少しでも信じてもらえたなら作戦は成功と言える。
千砂乃が存外協力的なのが意外ではあるが、僕に迷惑をかけたくないという優しさが千紗乃を協力的にさせているのだろう。
先程は千紗乃が無理をしてくれたおかげでなんとか母さんに僕たちの関係が良いと信じてもらうことができたが、これ以上千紗乃に無理をさせるわけにはいかない。
先程も決心したが、千紗乃に僕が気付いてしまったことを話そう。
僕たちの関係は高確率で終わってしまうが、どう考えたってそれが千紗乃のためなのだから。
「なぁ千紗乃、僕たちの関係についてなんだけど……」
「--私、もう一回お風呂行ってくる」
「え? あ、お、おう」
そう言って千紗乃は僕の話を聞こうとはせず、逃げるように温泉へと向かっていった。
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