第62話 盗み聞き2

 母さんは僕と千紗乃が付き合っていることを信じていないようだった。


 このまま母さんが僕たちの関係を疑い続ければ実は付き合っていないことに気付かれて僕たちの関係は終わりを迎えてしまう。


 そうならないために何かしら行動を起こさなければならないと考えた僕だったが、良い案なんてそう簡単に思い付くものでもない。


 どうしようかと考えている間に父さんたちからお風呂を出たと連絡をもらった僕は、部屋を出てお風呂に入りに行くことにした。


 脱衣所に到着し服を脱いだ僕は体を流し、露天風呂へと直行する。


 本来であれば屋内のお風呂で多少体を温めてから露天風呂に行くべきなのだが、そんな手順はすっ飛ばして入りに行きたくなるほど露天風呂には魅力がある。


 特に理由があるわけでもないのに、屋外にあるお風呂というだけでやたらワクワクするし開放感もあるのは一体なぜなのだろう。


 実に興味深い。


 屋内から屋外へと出た僕は転倒しないよう気を付けながら早足で露天風呂に浸かった。


「っっっっはぁ〜気持ちいいなぁ……」


 昔はお風呂の良さなんて分からなかったが、少しずつお風呂の良さが分かる様になってきている。


 一日の疲れを、次の日に持ち越すなんてこともあるし、お風呂でしっかり体を休めるのは大切なことだ。


 ……ってまだ高校生のくせに何言ってんだよって話なんだけどな。


 それでもやはり、最近の忙しく慌ただしかった生活を忘れられる温泉は最高だった。


「お姉ちゃん、本当にお兄ちゃんのことがすきなの?」


 くつろいでいたところに突然横から聞こえてくるとんでもない質問。


 この声は有亜だな。


 有亜は千紗乃のことをお姉ちゃんと呼んでいるので若干ややこしくはあるが、お兄ちゃんである僕が有亜の声を聞き間違えるはずがない。


 てか何その質問‼︎ 千紗乃はどう答えるんだ⁉︎


「もちろんよ。灯織君は優しいし、頼りになるし、一緒にいてすごく楽しいって思うから」


 僕はその言葉に思わず顔を紅潮させた。


 いや、分かってる。分かってるよ。今の発言が僕たちの関係に気付かれないためについている嘘だってことくらい。


 でも、今の言い方は演技とは思えない程のクオリティで心がこもっていたので、思わず顔を紅潮させてしまったのだ。


「へぇ……。お姉ちゃん、本当に灯織さんにゾッコンなんだ」

「ぞ、ゾッコンって程ではないかもしれないけど、灯織君のことが好きなのは間違いないわね」


 オーバーキルはやめてくれ千紗乃……。


「ゾッコンじゃないんですか……?」

「ああもう大好きよ。私は灯織君が大好きっ。そんな顔されたらそう言わざるを得ないじゃない」

「そうですよね‼︎ お姉ちゃんとお兄ちゃんは大親友…‥じゃなかった。大こいびと……? なんですから‼︎」


 いくら嘘の発言とはいえ、好きと言われて喜ばない男子はいない。


 千紗乃の発言を聞いた僕は、ルール違反ではあるが口を隠す程度までお風呂に浸り、ぶくぶくと泡を立てていた。

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