第53話 許嫁の復活
「おはぁーあ」
今日はいつも通り僕より遅く登校してきた灯織は眠そうに挨拶をしてきた。
あまりにも嘘くさいあくびをしている灯織は恐らく昨日俺に登校時間が早いことを疑われたので、昨日はたまたま登校時間が早かっただけだとアピールしているのだろう。
「今日はまた遅いんだな」
「やっぱり早起きは得意じゃないみたいでな」
灯織達が同棲しているという事実はもう知っているので、別に神凪に合わせて早く学校に来てもらっても構わないんだけどな。
今日も今日とてシャンプーの匂いは昨日のいい匂いと変わらないし。
詰めが甘いぞ灯織。
まあ本人は同棲していることを隠したいみたいだし、本人から言ってくるまで待つことにしよう。
「ねー翔太ーっ‼︎ 今日の帰り、みんなでスタジャでも行かない?」
そう言って音夢は神凪を引き連れて、俺と灯織のところまでやってきた。
急に音夢が俺たちの元へとやってきたことに灯織は疑問符を浮かべている。
「別に俺は予定もないしかまわないけど、灯織はどうする?」
「別に僕も構わないけど……てか翔太と雨森さんって仲良かったっけ?」
俺と音夢がこれまで高校で仲良く会話をしていたのは入学してからあの一件があるまでの短い期間だけ。
灯織が俺と音夢が会話をしている場面を見て疑問符を浮かべるのも無理はない。
「まあそこそこな」
「そうだったっけか。なんとなく僕の頭の中にはお互い睨み合ってるようなイメージが……」
「やっぱりそうよね? 私も音夢と水野くんって仲が悪いイメージがあったのよ」
直接言い合ったり取っ組み合いの喧嘩をしているわけではないので俺たちが絶対に仲が悪いと思い込んでいる人はいないものの、俺たちが睨み合ったりしているようなシーンはなんとなく記憶にあるようで、仲が悪いと思われているらしい。
実際仲が悪かったのだからしょうがないけど、今はもう仲が悪いなんて事実は消えてなくなった。
それどころか僕たちは、再び許嫁へと戻らことになったのだ。
その事実をいつ灯織に明かすことになるかは分からないが、今はまだ、黙っておくことにしよう。
「そうそう、言ってなかったけど私、翔太の許嫁なんだよね」
……いや言うんかい。
思わず関西弁でツッコんでしまう。
「--へっ⁉︎ 音夢が水野くんの許嫁⁉︎ そんな話聞いたことないんだけど⁉︎」
「おい翔太、俺もそんな話聞いたことがないんだが⁉︎」
「「だって言ってないし」」
そう、今の俺たちはこうして言葉が被ってしまうほどに仲が良い。
これまで築き上げてきた俺たちの関係は一度は崩れかけてしまったかもしれないが、消え去ってはいなかったのだ。
「まさか翔太にも許嫁がいたとはな……」
「ちょ、ちょっと灯織君⁉︎ 翔太にもって、水野君も私たちのこと知ってるの?」
「水野君もってことは雨森さんも?」
「知ってる知ってる。私も翔太もどっちも知ってるよ」
「あ、お互い相談してたのね」
「そ、そういうことだな」
「じゃあ私たち、許嫁同盟だね‼︎」
音夢の発言に、灯織と神凪はキョトンとした顔している。
ネーミングセンスがゼロなのはひとまず置いておくとして、この四人がこれから先の人生をずっと一緒に過ごしていくことになるのは言うまでもないだろう。
まさかまたこんな日がまたやってくるなんて思いもしなかったな……。
思わず目頭が熱くなるが、音夢の告白を断ったのは俺なので、いわゆる自作自演である。
「いいんじゃないか。許嫁同盟。まあ周りには言えた名前じゃないけど」
「ま、まあお互い色々と相談はしたいものね。許嫁の話なんて相談できる人中々いないし」
「それは一理あるな」
「これからよろしくね。本庄夫妻‼︎」
「「夫妻⁉︎」」
灯織達は勿論まだ夫妻なんて深い関係ではない。
しかし、この二人ならいつかきっと、本当に夫妻になってしまうのだろうと、そんな予感がしていた。
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