第48話 よく来た公園

 昔よく来た自宅から程近い場所にある公園。

 その公園にあるブランコに座りユラユラと揺れていた有亜に僕は声をかけた。


「……昔よく来たよな。二人でこのベンチに座りながら、お互い母さんとか父さんだったり、友達の愚痴とか言い合ったりしながらな」


 両親が家にいないことは多かったが、自宅の近くに公園があったのは僕と有亜にとって救いとなっており、暇があれば二人でこの公園へと遊びに来ていた。


 有亜から返事はないが、僕は有亜が座っているブランコの隣のブランコへと座った。


「嫌なことがあるとここで泣きながら二人でブランコに揺られてたこともあったっけか」

「……何か用でもあるの? お兄ちゃんにはもう神凪先輩っていう大事な人がいるじゃん。私に構ってる必要なんてないでしょ。


 有亜が飛び出していってしまった理由は明確で、ここ最近僕が千紗乃と同棲をする前から千紗乃のことばかりで有亜に構ってやれていなかったからだろう。


 それでももう高校生の有亜はできるだけ我慢をしていたのだろうが、僕が千紗乃と同棲を初めて我慢の限界を迎えてしまったのだ。


 千紗乃と知り合う前までは知り合ってからよりも家にいる時間は長かった、というかほとんどの時間を家で過ごしていたので、自然と有亜と関わる時間は長くなっていた。


 それが急に家にいる時間が短くなり自分に構う時間が減り、挙げ句の果てには高校生なのに家を出て同棲を始めたと言うのだから、僕のことを慕ってくれている有亜からすれば嫌な気持ちにもなるだろう。


「そりゃまあ千紗乃は大事な人だよ。でもそれより前からずっと、有亜は僕の大事な人なんだぜ?」

「じゃあなんで……なんで出ていっちゃったの⁉︎ 私のことが大切なら今から同棲なんてしなくていいじゃん‼︎ いつかこんな日がやってくるのは覚悟してたけど、あんまりにも早すぎるヨォ……」


 ついに堪えきれなくなってしまった有亜は涙を流して、僕のことをポコポコと力なく叩いてくる。


 そんな有亜の姿を見て、真実を話したり、今ここで無責任に同棲をやめると言うことは簡単だ。


 しかし、それでは千紗乃に対してあまりにも失礼だ。


 僕は千紗乃を幸せにしないと行けないのだから、こんなところで甘えてはいられない。


「考え方を変えるってのはどうだ? 仮に僕の結婚する人と有亜の仲が悪かったら、結婚したらもう僕と有亜が一緒にいる時間はなくなっちまうだろ?」

「……? うん。そりゃそうでしょ」

「じゃあ逆に、僕が結婚する人とめちゃくちゃ仲良くなれば、僕と一緒にいる時間も増えるだろ?」

「……まあそれは確かに」


 有亜は僕の話に食い付いてきた。


「千紗乃は別に有亜がいたって怒らないしむしろ歓迎してくれると思うからさ。千紗乃とめちゃくちゃ仲良くなって、僕たちの家にいっぱい遊びにきてくれよ。それなら一緒にいる時間もそこまで減らないだろ?」


 僕が諭すように言うと、有亜が流していた涙は少しずつ止まり始めた。


「……うん」

「じゃあそれでいいか?」

「……まあそれなら……ってことにしといてあげる。悲しくてお兄ちゃんの家に突撃したり急に泣き出して飛び出したりしちゃったけど、お兄ちゃんを困らしたいわけじゃないし」


 有亜は僕を千紗乃に奪われたくないとは思いながらも、困らせたくないという気持ちが強かったからこそこうして僕たちの家を飛び出して一人で思い詰め涙してくれていたのだろう。


 そんな有亜のことが、お兄ちゃんは大好きだ。


「よし、それならさ、今からもう一回僕たちのアパートに戻って千紗乃と話しようぜ」

「…‥許してくれるかな。失礼なこといっぱいしちゃったけど」

「あれくらいのことで怒るような奴じゃねぇよ。千紗乃はさ」

「お兄ちゃんが言うなら間違いないね」


 機嫌を取り戻した有亜はブランコから降り、僕たちは久しぶりに手を繋ぎながらアパートへと戻った。

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