第18話 逃げる妹
お化け屋敷に入ると、早々に入り口でドアがガタガタと揺れるけたたましい音に千紗乃が驚き、僕に身を預けてくる。
「ちょ、あんまり引っ付き過ぎは……」
「何言ってんのよ‼︎ それが今回の目的でしょ⁉︎」
それはおっしゃる通り過ぎるんですけどね千紗乃さん。
良い匂いがするとか胸元が見えそうとか距離が近過ぎるとか、あまりにも問題点が多過ぎてもう正直完全にお化け屋敷どころではないんですよ。
問題点が多過ぎるとは言ったが、今言った問題点は正直ただのご褒美である。
「それはそうなんだけどさ。もう少し控えめでも多分有亜を騙せるような気がするんですけど……」
「今更何言ってんの。ここまできたんだからとことんやってやるわよ‼︎」
お化け屋敷に対する恐怖のせいなのか、千紗乃のやる気はあらぬ方向へと向けられている。
まあ恐怖心が薄れたみたいで良かったけどさ。
後方を確認したが有亜もしっかりお化け屋敷の中までついてきているので、千紗乃が有亜を騙そうとすることにやる気を出してくれているのはありがたい話だし。
「それにしても怖くないな、このお化け屋敷」
「何言ってるの⁉︎ めちゃくちゃ怖いでしょ⁉︎」
完全に吹っ切れてしまったようで、お化け屋敷なんて怖くないと取り繕っていた先程までの千紗乃の姿はもうどこにもない。
恐怖心が無くなったようには見えていたが、怖い物は怖いようだ。
「大丈夫だって。もう半分くらいは進んだんじゃないか?」
「ま、まあそうね。長居はしたくないし少し早歩きで……ってキャァァァァァァァァァァァァァァァアアアアア‼︎」
気を抜いた瞬間に飛び出してきたお化けの人形に驚いた千紗乃は飛びつくようにして僕に抱きついてきた。
その勢いで僕は押し倒され、千紗乃が僕の上に覆い被さる形となった。
「だ、大丈夫か⁉︎」
「ご、ごめん。私ってば取り乱しちゃって……」
か、顔が近い。
息遣いが感じられる程の距離まで千紗乃の整った顔が近づき、僕たちはお互いの顔を見つめ合う。
……あれ、何これ。この今からキスでもしないといけませんみたいな距離感は。
お互い視線を逸らすわけでもなくジッと顔を見つめ合い、少しずつその距離感は近づいているような気もする。
いや、嘘の恋人の分際でキスなんて流石にそれは千紗乃も許さないだろ。
それにここ、お化け屋敷の中だし。
とはいえ、一度この距離感になってしまったからにはキスをしないと有亜に僕たちが本当のカップルではないのではないかと疑われてしまうかもしれない。
あれ、やっぱりこれ、千紗乃の顔が近づいて来てるよな。僕の勘違いじゃないよな?
え、このままだと僕たちキスしちゃうけどいいんですか千紗乃さん⁉︎
有亜に疑われないためとはいえいくらなんでも必死すぎやしませんか⁉︎
暗くてよく見えないが、千紗乃の顔は紅潮しているように見えるし、本気なのか⁉︎
「キャァァァァァァァァァァァァァァァ‼︎」
そう思った矢先、断末魔のような悲鳴をあげながら有亜が僕たちの横を通り過ぎて行った。
……そう言えば昔っから有亜もお化けや霊といった類の話は苦手そうだったな。
てかそれなら無理にイチャイチャしなくてもお化け屋敷に入るだけで有亜をまけたのではないか、ということには気付かないフリをした。
「あ、有亜も出てったし、もう頑張ってイチャイチャしなくても大丈夫そうだな」
「そ、そうね。早く出ましょうこんなところ」
微妙に気まずい空気が流れながらも、離れて体勢を立て直した僕たちは早足でお化け屋敷から出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます