第17話 彼女の魅力

 僕がお化け屋敷を選んだ理由、それは至って自然な形でイチャイチャできるからである‼︎


 って別に僕が本当に千紗乃とイチャイチャしたいわけではなくて、自然と僕たちが仲の良いカップルであるところを有亜に見せつけられる最高のシチュエーションだと考えたからだ。


 お化け屋敷の前に到着した僕たちは外観を眺めながら、各々の感想を述べる。


「へ、へぇ……。結構怖そうな見た目してるじゃない」

「そうか? 子供でもいけそうなクオリティに見えるけど」

「……。そうね、こんな可愛らしいお化け屋敷くらいで怖がる高校生なんているはずないわ」


 この遊園地は特にお化け屋敷に力を入れているわけでもなく、ただ大きな音が鳴ったり人形が動いたりするだけの簡易的なお化け屋敷だ。


 これくらいのクオリティなら、冷静さを保ったまま有亜に僕たちの仲の良さをアピールできると踏んだのだが……。


「もしかして怖いのか?」

「べ、別に⁉︎ 誰がこんなクオリティの低いお化け屋敷で怖がるって言うのよ‼︎」


 どうやらそんな考えは甘々の甘だったようで、千紗乃の声は震え倒している。


「いや、でも声も震えてるし……」

「震えてないですけど⁉︎」

「……わっ」

「キャァァアアッ‼︎」


 試しに僕が小さめの声で千紗乃を驚かそうと声を出すと、千紗乃は僕の腕にしがみついてきた。


「やっぱり怖いんじゃないか」

「何すんのよ‼︎ バカ‼︎」

「我慢すんなよ。お化けが苦手な高校生だってたくさんいるだろ」

「だから怖くないって言ってるでしょ⁉︎」

「ほら、手も震えてる」


 僕は千紗乃の手を取り、両手で優しく握りしめた。

 その細くて綺麗な手は僕の予想を遥かに超える勢いで震えていたのだ。


「ふ、震えてなんか……」

「すまん。千紗乃が苦手だって知らなかったから一人で突っ走っちまったわ。ほら、別のとこ行こう」

「で、でも……」

「別に良いよ。お化け屋敷じゃなくたって有亜を騙せるところなんていくらでもあるだろうし。ほら、観覧車とか」


 そう言って僕は観覧車の方を向いて右手で観覧車を間指さす。


 その時、ポケットに突っ込んでいた左腕に千紗乃が勢いよくしがみついてきた。


「ど、どうしたんだよ急に」

「灯織君だって、妹さんに疑われたら大変なんじゃないの?」


 その言葉に僕は一瞬言葉を失ってしまう。


 こんなに震えているのに、自分のことより僕のことを考えてくれるなんて中々できることではない。


 千紗乃と初めて喋った時はできるだけ迷惑をかけないよう、自分の両親に千紗乃が僕の許嫁になるのはやめてあげてくれと言ってもいいと息巻いていたが、正直言いづらい話ではある。


 そう伝えたところで、『一度付き合ってから考えろ』とか、『もっとお互いのことをよく知ってからでも遅くない』と言われることは目に見えているし。


 そうなると一番楽なのは、ある程度千紗乃と仲良くした上で波長が合わず喧嘩別れしたとでも言うこと。


 なので、千紗乃の方から協力的に嘘の恋人を演じてくれるのは僕としても非常に助かるのである。


「まあそりゃ疑われない方が面倒臭くはない」


 まあ疑われないのもそれはそれで有亜が面倒くさそうだが……。


「じゃあいくわよ、お化け屋敷」

「は? 無理しなくてもいいんだぞ?」

「大丈夫よ。灯織君にだけ負担をかけることは絶対にしたくないし」


 見た目だけじゃない、千紗乃の内面的な部分を好きになった男子も多いのだろう。


 見た目が可愛いだけのただの美少女かと思っていたが、やはり男子からの人気を博するにはそれなりの理由があるということだろうか。


 千紗乃がそれだけ頑張ってくれるなら、僕だって男を見せないわけにはいかない。


「よし、じゃあいくか」

 

 そう言って僕は千紗乃の肩を抱き寄せてお化け屋敷へと突入した。

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