第16話 監視する妹

 お兄ちゃんに許嫁ができたと聞いた時は、どうせまたお父さんの嘘だろうと気にも留めなかった。


 しかし、今回に限ってお父さんの発言は真実だったのだ。


 その証拠に、私は地味で冴えないお兄ちゃんがお父さんから許嫁ができたと伝えられた日の放課後、通学路で学校一の美少女、神凪先輩と会話をしているところを目撃してしまった。

 

 なんでそんな場面を目撃できたのかって?


 そ、そりゃ家が同じ方向なんだから当たり前でしょ? 別に後をつけたりなんてしてないんだから。


 ってそんな話はどうでもよくて、今までお兄ちゃんが女子生徒と会話してる場面すら見たことがないのに、神凪先輩みたいな美少女と会話をしている場面を目撃してしまえばお父さんの戯言も信じざるを得ない。


 その日以降もお兄ちゃんと神凪先輩が会話している場面を何度も目撃しており、どれだけ自分に都合良く考えようとしてもやはりお父さんの言っていた話は真実なのだろう。


 お兄ちゃんに許嫁ができたという話が真実だと理解した私は、ある時リビングでお父さんを問い詰めた。


「お父さん、お兄ちゃんに許嫁ができたってどういうこと?」

「灯織ももういい年だろ? それなのに彼女どころか友達すらできてないってのはこの先の人生で灯織自身が苦労すると思ってな」

「だからって許嫁って話が飛びすぎじゃない⁉︎ お兄ちゃんがそれを望んでたっていうの!?」

「望んでたかどうかは知らないけど、最近の灯織見てると満更でもなさそうじゃないか? 千紗乃ちゃんとも仲良くやってるみたいだし」

「そ、それはそうかもだけど……」


 実際問題、お兄ちゃんは神凪先輩と関わり始めてからどことなく表情が明るくなった様な気がするし、これまでよりも楽しそうに人生を過ごしているような気がする。


 そりゃお兄ちゃんが幸せそうなのは嬉しいんだけど……。


「有亜も早く良い彼氏見つけて連れて来いよ。お父さんは大歓迎だから」

「べ、別に作ろうと思ったら彼氏なんてすぐできるもん!! 同級生の男子なんてみんな子供っぽいから彼氏にしたくないだけだし!!」


 そう言って私はリビングを出て、自室へと戻った。


 そう、同級生の男子は私の理想ではないのだ。


 同じ教室にいても聞こえてくるのはカードゲームがどうとかあの漫画がどうとかアダルトな会話だとか、精神年齢が低過ぎて大人な男性に憧れを抱いている私の求める彼氏像とは正反対なのである。


 私の理想の彼氏像、それはお兄ちゃんみたいな人だ。


 何とかしてお兄ちゃんと神凪先輩が仲の悪い証拠を掴んでお父さんたちに報告するんだから!!


 待っててよ神凪先輩‼︎ 今は澄ました顔でお兄ちゃんの側にいるかもしれないけど、後で泣き喚いたって知らないんだから‼︎

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