第10話 そっちから

 うぅ……。私から灯織君を遊園地に誘うなんて無理だよ……。


 お昼休み前の授業中、お昼休みに灯織君に声をかけようと考えていた私は声をかける前から弱気になっていた。


 私たちが嘘の恋人になったのは、好きでもない人と許嫁になんてなりたくないだろう、と私に気を遣ってくれた灯織君が、両親を上手く誤魔化すために嘘の恋人になろうと提案してくれたからだ。


 要するに、灯織君は私が灯織君を好きだとは思っていない。


 それなのに、私から灯織君を遊園地に誘ってしまえば、本当は私が灯織君を好きなのではないかと疑われかねない。


 以前灯織君を私の家に誘った時のように、私たちが結婚を前提に付き合っていると両親に信じてもらうために遊園地に遊びに行こう、と言えばとりあえずは納得してくれるかもしれないが、頻繁にその言い訳を使うと疑いの目を向けられるだろう。


 とはいえ、もうチケットは貰っちゃったし……。


 いや、まあチケットを貰う時に変な条件を勝手に追加して来たのは音夢なんだけども。


 どうするべきか頭を抱えていると、マナーモードにしているスマホが振動した。


 友達から来た連絡以外特に通知をしていない私のスマホに授業中通知が来ることはあまりないので、不思議に思った私はポケットからスマホを少しだけ出して先生に気付かれないようにその通知の内容を確認する。


 画面には誰かから無料チャットアプリ、RINEでトークが送られて来た通知が来ており、目を細めてトークを送って来た人物の名前を確認する。


 一瞬自分の目を疑ってしまったが、私にトークを送って来ていたのは灯織君だった。


 ……いや灯織君⁉︎ なんで授業中に灯織君が私にトークを⁉︎ 


 授業中にわざわざトークを送ってくるなんてよっぽどの内容なんじゃ……。


 恐る恐るその通知の内容を確認する。


『今週の土日、遊園地行かね?』


 その通知を見た私は教室の一番後ろ、窓側の席にいる灯織君の方を思わず振り返った。


 え、なんで私が遊園地に誘おうとしていたタイミングで灯織君が私を遊園地に誘ってくるの⁉︎ そんな奇跡みたいなことある⁉︎


 もしかして灯織君、人の心が読めるエスパーか何かだったりするのかな……。


 いや、まあ冷静に考えてそれはないとして、何も疑いを持たずに考えるとするならば偶然なのだろう。


 灯織君も両親に気付かれないよう私とのデート計画を練ろうとしているのだろうか。


 都合の良いように解釈すると、灯織君、もしかして私のことが好きなのかも……ぐへへ。


 おっと女子高生とは思えない笑みを浮かべそうになってしまった。


 ほっぺを軽く両手で叩き正気を取り戻してから灯織君の方に視線を向けると、灯織君は首を傾げながら右手でオーケーポーズを作り、私に予定が空いているかどうかの確認をして来た。


 そんな灯織君に私はOKポーズを返して、灯織君は二度頷き私から視線を黒板の方へと戻した。


 え、何これ何これ。


 私たち本当に付き合ってるカップルみたいじゃない⁉︎


 授業中だというのにまともに授業の内容も聞かず、私は明らかに浮かれてしまっていた。

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