第11話 親友からのススメ2

 二時間目の授業を終えた僕は自分の席で机に突っ伏した状態で大きくため息をついた。


 先日千紗乃と繰り広げた質問ゲームでかなりの体力を消耗し、その体力は未だに回復していないのだ。

 そのせいで、授業にも身が入らないし休み時間にトイレに行くことでさえ億劫に感じてしまう。


 僕の体力を削り取った張本人の方へ視線を向けると、楽しそうに雨森さんと会話してるし、これ完全に僕だけ損してないか?


 まあ後ろ向きにばかり考えていても疲労するだけだし、千紗乃の父親に挨拶できたことは嘘の恋人関係を信じ込ませる上で大きなアドバンテージにはなったと前向きに考えることにしよう。


「どーしたどーした? いつも活力のない顔してるけど今日は余計に活力がないな」


 机に突っ伏して話しかけるなオーラを醸し出していたというのに、そんなことはお構いなしと陽気に話しかけてきたのは僕の前に座る水野みずの翔太しょうた


 翔太は地味で根暗な僕にひたすら話しかけてきて、何度もうざがっても話しかけ続けてくるのでいつの間にか友達のような関係になってしまっていた。


「僕にも色々あるんだよ」

「まあ誰にでも悩みの一つや二つくらいあるよな」


 翔太は僕が困っていると助けを頼んでいなくても手を差し伸べてくれる。


 教科書を忘れた時はわざわざ別のクラスの友人から教科書を借りてきてくれたり、授業で分からないところがあれば優しく教えてくれるのだ。


 水野になら、今の状況を話しても相談に乗ってくれるかもしれない。


 僕と千紗乃の関係が嘘だという事実が広まってしまう可能性もあるが、水野は誰かが困るようなことは絶対にしない奴だ。


「実は--」






 僕は水野に千紗乃と許嫁になったことや嘘の恋人になったことを打ち明けた。


「--はぁっ⁉︎ 神凪が許嫁になった⁉︎」

「ちょ、声でけぇって‼︎」


 翔太が驚くのも無理はない。


 S級美少女、神凪千紗乃が僕みたいな地味で根暗で人との関わりを極力持たないような奴の許嫁になったのだから。


「す、すまん……」

「気持ちは分かるから別にいいけどさ……。みんなに知れ渡ったら大変なんだから気を付けてくれよ」

「そんな話題一瞬で学校中の話題を掻っ攫っていくだろうな」

「間違いないだろうな」

「任しとけ、俺は親友の秘密を第三者にバラすような真似は絶対にしねぇから」


 これまで見たことがない程真剣な眼差しでそう発言してくれる水野を見て、誰かに秘密をバラしてしまうかもしれないという不安は一瞬で吹き飛んだ。


「ああ。助かる」

「それにしても、そういうことだったのか……」

「ん? そういうことって?」

「あ、いや、なんでもない。そんな面白いことになってるならもっと早く教えてくれよ」

「面白いって人ごとみたいに言わないでくれよ……。困ってるんだから」

「そりゃそうだわな」

「何が困るって、千紗乃に迷惑がかかるのが申し訳ないんだよなぁ」

「もう呼び捨てって彼氏気分ですか」

「ちげぇよ。両親に僕たちが嘘の恋人だって怪しまれないように仲が良いフリしてんだよ。僕みたいな地味で根暗なやつと許嫁なんて迷惑でしかないだろ?」

「マジで面白すぎるだろその状況」

「だから面白くないって」


 翔太は完全に僕の置かれた状況を面白がっているようだが、僕が水野の立場でも僕自身の状況には面白いという感想しか出てこないだろう。


「まあでも、俺は本当に灯織は良い奴だと思ってるから。むしろ神凪は運が良いと思うぜ」

「どこをどう見たら僕が良い奴なんだ」

「まあ自信持てよ」

「……そうだな。まあ仮にも千紗乃の彼氏なんから。自信持つわ」

「自信持つためにもデートに行ったらどうだ? それで神凪を完璧にエスコートできれば評価爆上がりなんじゃね?」

「元が低すぎてどれだけ上がっても意味ねぇよ」

「よし、とにかく昼休みにでもデートに誘ってこいよ。後は俺がデートコース考えてやるから」

「なんで僕の方から千紗乃をデートに誘わないといけないんだよ」

「嘘の恋人ってバレないためにも、神凪に、相応しい男にならないといけないだろ?」

「……はぁ。まあ頑張るよ」 


 自分に自信はないが、嘘の彼氏とはいえ側から見れば僕は間違いなく千紗乃の彼氏に見えるはず。


 そんな僕が千紗乃の横で自信なさげに歩いていたら千紗乃の評価だって落ちかねない。


 デートに行きたいとは思っていないが、翔太の言う通り、自信を付ける必要はありそうなので、とりあえずデートに誘ってみるか……。


 直接は流石に勇気がいるので、RINEでトークでも送るとしよう。

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