第2章
同棲開始
第26話 親のおせっかい
「お、おはよう灯織」
リビングに入るなり、僕の父親がご機嫌な様子で挨拶をしてきた。
この感覚、身に覚えがある。
これ以上父親に口を開かせてしまえば何かとんでもない話をされそうな雰囲気を感じ取った僕は食い気味に挨拶を返そうとした。
「おは……」
「千紗乃ちゃんとは仲良くやってるそうじゃないか」
僕に挨拶を返す暇すら与えず父さんは千紗乃の話を切り出してきた。
「ま、まあね」
ダメだ、今の父親に少しでも間を与えればやられるっ……。
「今日は天気が良い……」
「そんな灯織に朗報だ。今日から俺が管理してるアパートで千紗乃ちゃんと二人で暮らしてもらうことになったから」
『はいはい。分かった分かった』と以前のように呆れた様子で返事ができればよかったが、このパターンが嘘ではなく事実であることを僕は知っている。
「マ、マジか」
父親の発言に、僕は言葉を失いその場に立ち尽くすことしかできなかった。
考えなければならないことは山積しているが、今はとにかく千紗乃と話し合わなければならない。
アレコレ悩むよりも先に、僕は千紗乃に声をかけた。
「千紗乃、父親から何か聞いたか?」
「え? あーなんか大事な話があるからちょっと待っててくれって言われたんだけど、待つの嫌だったから何も聞かずに出てきちゃった」
おい何やってんだよ千紗乃父⁉︎ それじゃあ何か⁉︎ 僕が千紗乃に今朝父親から聞いた話をしないといけないってことか⁉︎
ちょっとは父親の責務を果たせってんだバカヤロウ‼︎
「そ、そうか……」
「何か大事な話でもあったの?」
キョトンと可愛らしい顔でこちらを見つめる千紗乃を見て、僕は心を決めた。
「ちょっと来てくれ」
「え? 来てくれってどこに……ってちょっと⁉︎」
僕は千紗乃の手を掴み歩き出した。
「ちょ、ちょっとどこに連れてくのよ‼︎」
そう問いかけられても僕はその問いかけを無視してひたすらに歩き続け、やってきたのは校舎裏。
「千紗乃、落ち着いて聞いてくれ」
「な、何よ」
「急に殴りかかったりしないでくれよ」
「そんなことするわけないでしょ」
「……そうか。じゃあ言うぞ」
「え、ええ」
「僕たち……同棲しないといけないみたいだ」
「……へ? 同棲?」
「そう、同棲」
千紗乃は怪訝な表情で首を傾げながらこちらを見つめている。
「そ、それは流石の私でも騙されないわよ。私をからかおうと思ったってそうは……」
僕の話を信じようとしていない千紗乃だったが、そんな矢先に千紗乃のスマホに着信が来た。
「あ、もしもしパパ? うん、うん……同棲⁉︎ しかも今日から⁉︎ ちょ、ちょっとパパ? パパ⁉︎」
慌てふためきながら千紗乃は耳に当てたスマホを下ろした。
「ほ、本当みたいね……」
「だから言ったろ」
こうして僕と千紗乃の間には沈黙が生まれた。
嘘の恋人ってだけでも精一杯なのに、付き合ってもいない同級生の女子と同棲だなんて……。
お先真っ暗な状態に僕は思わず天を見上げた。
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