第27話 飾られた写真

「ああもうどうしようどうしよう。この服は……あんまり可愛くないし、この下着は……ちょっと積極的すぎるかな」


 急遽決まった灯織君との同棲に向けて、私は部屋の中の物を散乱させながら荷造りを進めていた。


「このパジャマもあんまり可愛くないし……。パジャマも下着も誰かに見せる予定なんてなかったから可愛いのなんて買ってないよ……」


 同棲の準備をしながら、どうせ誰にも見られることはないと可愛いパジャマや下着を買っていなかった自分を恨んだ。


 いやまあ下着は同棲しても見せる予定なんてないけどね?

 万が一、万が一のために可愛いのを着ておくだけだからね?


 それにしたって、同級生の男子と同棲なんてあり得ない状況を今日伝えられて今日からスタートするとは思ってもみなかった。


 そんな突拍子もない状況を押し付けられれば、拒否するのが当たり前である。


 それでも、拒否反応を起こさずすんなりと灯織君との同棲を受け入れられたのは、私が灯織君のことが好きだからだろう。


 灯織君と同棲させられると知って、拒否反応を起こすどころかワクワクして胸をときめかせている自分がいるだなんて、昔の私からは想像も付かない。


「よしっ。できたっ」


 全ての荷物をカバンに詰め込み終え、何か忘れ物が無いか部屋の中を見渡す。


 初めて見る物の少ないスッキリとした部屋の中で、とある一つの物が私の目に留まった。


 それは先日、灯織君と遊園地デートに行った時に観覧車で撮った写真だ。


 まさかキスをしている瞬間の写真が収められるとは思っていなかったが、これを部屋に飾っている私もかなり大胆だとは思う。


 私の部屋を出入りするのはたまに片付けをしてくれるママくらいだけど、ママがこの写真を見た時に、私と灯織君が仲良くやっているのだと思い込んでくれればいいと考え写真を机の上に飾った。


 --というのは建前で、私が灯織君と初めて撮ったツーショットの写真を、いつでも目に入るところに置いておきたいと思い写真立ての中に写真を入れて飾っているのである。


 私はその写真立てを手に取り、にらめっこした。


「--いやいや私、にやけすぎでしょ」


 写真立てのガラスに私のニヤついた顔が写っており、私は思わず自分に突っ込んだ。


 あまりにもニヤついているその表情を見て、灯織君との同棲を本当に楽しみにしているのだと改めて理解した。


 この写真は流石に同棲先には持っていけないので、私は名残惜しそうに机の中へとその写真立てをしまった。


「……またね」


 自分の部屋に別れを告げ、一階に降りて行くと、リビングにはママとパパの両方が座っていた。


「もう。パパのせいであんな冴えない人と同棲させられるなんて最悪なんですけど」

「……悪かったとは思ってるよ。まあ楽しんでこい」

「誰が楽しめるもんですか」

「ふふっ。表情と喋ってる内容が全く合ってないわよ」


 そうママに指摘された私は頬を赤らめる。


「そ、そんなわけないでしょ。それじゃあ」


 同棲に対するワクワクと、家を出ていかなければならない寂しさが入り混じる。

 複雑な心境の中で私は家を出て、気持ちを新たに新居へと向かって歩き出した。

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