第13話 誰かの視線
遊園地デート当日、僕は集合場所である駅前でスマホを操作しながら千紗乃を待っていた。
どうせ嘘のカップルを演じるのなら千紗乃に相応しい男にならなければ、と自分の中で勝手に盛り上がり、水野に背中を押されたこともあって千紗乃を遊園地に誘った。
普通に生活していれば僕とは生涯関わることのないであろう美少女をこうして僕が待っているという状況は、少し前の僕に伝えても信じてもらえないだろう。
「あれ、まだ集合時間じゃないわよね?」
千紗乃の声が聞こえてきて、スマホから声がした方へと視線を移した僕は思わずその可愛らしい姿に視線を釘付けにされてしまう。
休日デートに行くのだから私服で来るなんて当たり前のことなのだが、それでも僕はS級美少女が制服ではなく私服という武装をすることで放つ圧倒的存在感に押し潰されそうになっていた。
「そうなんだけどな。楽しみにしてたせいか予定より早く家から出ちまったんだよ」
「た、楽しみ……。ふーん。そう。楽しみだったんだ」
僕が今日を楽しみにしていたという話を聞いて満更でもなさそうな表情を見せる千紗乃を見て若干緊張感がほぐれる。
その瞬間、僕は何やら視線を感じたような気がして辺りを見渡した。
「どうしたの?」
「いや、誰かに見られてるような気がして……」
「そんな第六感みたいな話、中々当たらないでしょ。それじゃあ行きましょ」
「お、おう。そうだな」
僕が感じた視線の正体が気になりつつも、千紗乃のいう通り、『視線を感じた』なんて話が現実にあるはずがないと気には留めず、僕たちは遊園地へと向かう電車に乗り込んだ。
遊園地に到着してすぐ、上機嫌に飛び跳ねながら歩く千紗乃の後ろをついて歩き、僕たちはジェットコースターの列へと並んだ。
「絶叫系好きなのか?」
「ええ。遊園地に来たら必ず乗るわね。灯織君は乗らないの?」
「苦手ってわけじゃないけど、好きでもないよ」
「こういうのって意外と女の子の方が好きだったりするわよね」
「そう言われてみれば男子の方が苦手な奴多い気がするな」
僕はその苦手な男子に該当しないので絶叫系のアトラクションに乗ることになってもなんら問題はない。
なんて浅はかな考えは一瞬にして消え去ることとなる。
三十分程度で順番が回ってきたので、僕たちは荷物置き場に荷物を置きジェットコースターへと乗り込んだ。
「結構並んだわね。まあその分ワクワクもしてるんだけど」
「待時間も良いスパイスってことだな」
ジェットコースターに乗り込んでからもそんな風に余裕を見せながら会話をしていたのだが、発車直前、予想していなかった事実に気が付く。
あれ、これ、思ってたより千紗乃との距離近くね?
ジェットコースターに乗るのだから隣の席に座ることは理解していたが、その距離については考えたことがなかった。
「うぅー動き出したわね」
「あ、ああ……。そうだな」
「ねぇちょっと、なんで私から視線逸らしてるわけ?」
「え? 別に? 逸らしてなんかないですけど?」
「じゃあこっち向きなさいよ」
「ひゅーぴゅるるるぅー」
僕は口笛を吹いて千紗乃の言葉を上手くかわす。
いや上手くかわせてるかどうかは知らんけど。
「やっぱり怖いんじゃない。ほら、もう落ちるわよ?」
「そうだなぁ」
早く、早く落ちてくれ‼︎ じゃないと僕が、恋に落ちてしまいそうになる‼︎
って上手いこと言ってる場合かぁぁぁぁ‼︎
「やばっ。落ちる落ちる落ちる‼︎」
「--ちょっ⁉︎」
ジェットコースターが落ちていく直前、千紗乃は僕の右手を掴み、そのまま天高く振り上げた。
「きゃああぁぁぁぁぁぁっ‼︎(落ちるの怖い楽しい楽しい楽しい楽しいっ‼︎)」
「うわああぁぁぁぁぁぁっ‼︎(柔らかい柔らかい柔らかいぃぃぃぃっ‼︎)」
ジェットコースターによる恐怖よりも、千紗乃に手を握られた驚きから思わず普段出さないような大声で叫んでしまい、今朝感じた視線のことはすっかり忘れ去ってしまっていた。
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