第7話 童貞?

 神凪のことが好きというわけではないが、好きなタイプと訊かれて神凪のような女性と回答することに間違いはない。


 これまで付き合ったこともなければ誰かを好きになったこともない僕に好きなタイプというものは存在しないし、テレビもあまり見ないのであの女優がタイプだと誰かに例えて伝えることもできない。


 とはいえ、この質問ゲームは回答を拒否することはできないので、何かしら回答をしなければならないとなると身近な人物で例えるしかなくなってしまう。


 そうなると、神凪のように容姿端麗で文武両道、ツンツンしているところはあるものの、人には優しく自分の思ったことはハッキリ言うタイプで学校中の生徒から愛されている神凪のことは間違いなく好きな部類だった。


「え、そ、な、何言ってんのよ‼︎ 別に本庄君にタイプって言われたって嬉しくないんだからっ‼︎」

「知ってるよ。それは僕が一番よく理解してる」


 自分が一番理解してるというのも悲しい話だが、自分の立場を理解しているからこそ、それ相応の立ち回りができるのである。


「そこまで自分のことを卑下しなくても……」

「いや、本当に僕は根暗でどうしようもない奴……」

「そんなことないわよ‼︎」


 少しだけ語気を強めた神凪の言葉に思わず面食らってしまう。


「ど、どうした急に?」

「全く関わりが無かった本庄君と急に許嫁にさせられた時はどうしようかと思ったけど、本庄君はずっと私のことだけ考えてくれて、その優しさにどれだけ救われたと思ってるの」

「そ、そうなのか」


 語気が強いせいで怒られているかのような感覚に陥るが、要するに神凪は僕をフォローしようとしてくれているのか?


 そんな優しさも、神凪が大勢の生徒から愛される所以なのだろう。


「そうよ。だからもっと自信持ちなさいよね」

「あ、ありがとう」

「そ、それじゃあ次の質問‼︎ 早く行きましょ」


 我に帰った様子の神凪は僕に早く次の質問へ行くよう促してきた。


 照れ隠しなのかどうかは分からないが、とにかくこの気まずい空気を取っ払うためにも早く次の質問へ行かなければ。


 神凪は相変わらず恋愛系の質問ばかりしてくるので、変に空気を壊してしまわないよう恋愛系の質問で攻めることにしよう。


「……初キスは何歳でしたい?」

「キ、キスっ⁉︎」


 いや何訊いてるんだ僕⁉︎ 

 この質問なんか気持ち悪くないか⁉︎


 爽やかなハニカミイケメンがこの質問をするか、僕のような陰キャがこの質問をするかでは意味合いが丸っきり変わってくる。


 まともに女子と恋愛トークなんてしたことがない、というかそもそも会話をしたことがない僕が、神凪と同じ土俵に立って質問しようとしたのが間違いだったんだ……。


「あ、そ、そうだよな⁉︎ 神凪くらい可愛けりゃもうキスくらい何回だってしてるよな⁉︎」

「……ない」

「え、なんて?」

「……まだしたことない」


 え? まだしたことない?


 いやまさか、だって神凪……。


「こんなに可愛いのに?」

「--かっ⁉︎ か、可愛いからって誰でもかれでもキスしてるわけないでしょ‼︎ バカ‼︎」


 言われてみれば顔が良いからといってみんながみんな恋愛をしていて、みんながみんなキスをしているかというとそんなこともないのだろう。


 どれだけ顔が可愛くたって、恋愛に奥手な人だって五万といるはず。


 僕は神凪の非の打ちようがない容姿のせいで勝手に偏見を持っていたのかもしれない。


 神凪の回答に嘘偽りがないのであれば、恋愛に興味はあったとしてもそれ以上のことには興味なんてなくて、ただ純粋に恋愛を楽しみたいのだろう。


「……確かにそうだよな」

「本当よ。変なイメージ持たれたら困るわ」

「外見で人を判断しないよう気を付けるよ。ありがとな。じゃあ次の質問に行ってくれ」

「……本庄君って童貞?」


 前言撤回、神凪は恋愛以上のことにしか興味がないのかもしれない。

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