第5話 神凪の家

 「私、先に帰ってるから」


 何をするために先に帰ったのかは分からないが、神凪から送られてきた住所を元に神凪の家へと向かって歩き、集合予定時刻の五分前に神凪家に到着した。


 言い方は失礼になってしまうかもしれないが、神凪の家はどこにでもある二階建ての一軒屋。

 僕の家は親が社長をしていることもあり他の家と比べると少しだけ豪華なので、神凪の家が小さく感じてしまう。


 それなのに、これほどまでにインターホンを押しづらいのはここが神凪の家だからだろう。


 とはいえ、いつまでも悩んでいるわけにはいかないので勇気を出してインターホンを押した。


「……いらっしゃい。入って」


 玄関の扉から出てきた神凪はいわゆる部屋着姿。


 上下薄ピンク色でオーバーサイズのゆるっと感ある部屋着はもしかするとそんじょそこらの童貞を◯す服よりも破壊力があるかもしれない。

 

 学校で着ている制服とは違うプライベートな一面に思わずドキっとしながらも、それを悟られないよう神凪の家に入った。


「お邪魔します」


 僕が家に入ると、廊下に見えていた扉から出てきたのは神凪の父親だ。


「おお君が灯織君か。本庄さんの息子だけあって中々イケメンだね。いつも娘がお世話になってます」


 身長が高く、礼儀正しそうな見た目からはこの人が僕の父親の上司なのではないかと勘違いしてしまいそうになる。


「ちょっとパパ、本庄君って社長さんの息子なんでしょ? 失礼な発言が無いよう気をつけてよね」

「ああ、そうだな。すまんすまん」

「お世話になります。本庄灯織と申します。娘さんは容姿端麗で文武両道、人柄もよく学校中の生徒から慕われている存在です。そんな彼女とこうしてご縁があったことを心から感謝します」

「はぁ〜よくできた子だ。私の娘にはもったいないかもな。まあゆっくりしていってくれ」

「ありがとうございます。お邪魔させていただきます」


 神凪父に挨拶をしてから僕は二階の神凪の部屋へと案内された。


 扉を開けると予想以上にメルヘンな部屋で、ピンクを基調とした部屋のインテリアはいかにも女子って感じだ。


「あんまりジロジロ見ないでよね」

「す、すまん」

「ていうか本庄君、すごい礼儀正しいのね。どこかで礼儀作法を学んだの?」

「いや、わざわざ勉強したことはないよ。ただ親父の会社関係の知り合いだったりとかに挨拶することが結構あったからいつの間にか身に付いてた」

「へぇ……。私とは住む世界が違うのね」

「そんなことないよ。僕は神凪の方こそ、僕とは住む世界が違うなって思うよ」


 僕は学校にいる間誰とも喋らずただ教室の隅で一人、スマホをいじっている。


 そんな僕からしてみれば、S級美少女なんて呼ばれクラスの中心人物となっている神凪とは住む世界が違う思ってしまうのは当然のことだろう。


「本庄君が今の状況を悲観する必要なんてないと思うけど。人には向き不向きがあるし、それが本庄君に合っているなら私はそのままでいいと思うわよ」


 ……これは驚いた。


 これまでの人生で、引っ込み思案で人との関わりが苦手な僕に、「変われ」という人はいても、「そのままでいい」と言ってくれた人は誰一人としていない。


 両親でさえ、地味で根暗な僕には根本的に性格を変えてほしいと思っている程だ。


 それなのに、神凪は「そのままでいい」と言ってくれた。


「……そっか。それもそうだな」

「ええ」


 身の程知らずかもしれないが、「そのままでいい」と言ってくれた神凪に僕は思わず惹かれてしまっていた。


「ところで今からどうする? 親に疑われないためにとりあえず神凪の家に来たのはいいけど、別にすることもないし……とは言ってもあんまりすぐ帰ると疑われるしな」

「これから嘘のカップルでいるためにお互いのことを知らないといけないじゃない? だから、お互い三つずつ質問をできるっていうのはどう? その質問に対する回答を拒否するのは禁止で」

「回答拒否禁止ってそれはやりすぎな気も……とはいえ確かにお互いのことを知るには必要かもな」


 回答拒否禁止か……という考えが最初に頭をよぎったが、それは神凪も然りだよな、と思いこの質問ゲームを受けることにした。


「じゃあ始めましょ」


 そして僕たちの、「ドキドキ、質問ゲーム‼︎ 」が始まった。

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